言わねばならないこと(66)熟考せず決断 危うい 精神科医、作詞家・きたやま おさむさん - 東京新聞(2016年2月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016021902000205.html
http://megalodon.jp/2016-0219-0952-58/www.tokyo-np.co.jp/article/feature/himitsuhogo/iwaneba/list/CK2016021902000205.html

特定秘密保護法や安全保障関連法の成立をめぐる慌ただしさを見ていると、安倍政権はぱっと決断しないと物事が解決しないという強迫観念を抱いているように感じる。潔さを尊ぶ日本の精神を表すかのようだが、どっちつかずのまま決断しない中途半端さこそが大事だと強調したい。
私たちは戦後七十年間、さまざまに評価が分かれる憲法九条の線上で、日本的な平和を築いてきた。それを象徴する存在が自衛隊だ。「戦力」と位置付けなかったのは、私たちに戦争中の反省や罪悪感が記憶として残っているからだ。
湾岸戦争時には「カネだけ出して何もしない」と他国に批判された。だが、日本は同じ立場を貫いてきた。そんなに「未熟な状態」なのか。弱い者ほど外部の目で自分を評価する。共同体から外されても、内なる孤独に強くならないといけない。
安倍晋三首相は今、国際的な脅威を訴え「大変だぞ、どうするんだ」という問いを突きつけてきている。問題は山積しているし、片付けていかなければならない。だが、良いアイデアが浮かぶまでには時間がかかるし、一生懸命考えて答えが出ないこともある。
熟考せず、決断ばかり優先すれば、その場の空気に流されかねない。東京電力福島第一原発事故にしても、何もなかったかのように他の原発は再稼働している。本当に正しいのか。国がとる態度は、国民一人一人の意思の総和であるべきだ。国の意思を優先させるような論理には反対だ。
かつて「戦争を知らない子供たち」という曲の作詞を手掛け「私に残っているのは涙をこらえて歌うことだけさ」と書いた。有事になれば「歌っている場合か」という声にかき消されるだろう。それでも、小さな声で歌い続けていたい。
1946年生まれ。60年代後半に人気を博したザ・フォーク・クルセダーズの元メンバー。解散後は医師として活動。