<大人って…18歳成人の課題> 児童養護施設出身者と考える(下):千葉 - 東京新聞(2017年1月15日)

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横浜市の保育士山本美咲さん(22)は、児童養護施設を退所した十八歳から二年間、千葉市内のマンションで暮らした。保証人不要で家電付き、家賃は月二万五千円。千葉県内の児童養護施設などでつくる県若人自立支援機構(千葉市)が施設出身者だけに貸し出しているマンションだった。
山本さんは、五歳から高校卒業まで千葉県内の児童養護施設で暮らした。アルバイトなどで貯金をため、奨学金を借り、高校卒業後は、千葉県内の保育の専門学校へ進学を決めた。
施設からは、十八歳以上でも学生であれば施設で住み続けられると勧められたが、山本さんは高校卒業と同時に退所した。「虐待される子どもは増えていて、私が残ると新たに施設に入りたい子が入れない。出るしかないと思った」
高校卒業とともに児童養護施設を退所した十八歳の若者は、二十歳成人を迎えるまでの二年間、何らかの事情で親を頼ることができない場合、「無権利状態」に陥る。アパートや携帯電話などの契約には、保証人が必要。住み込みの仕事を選んだり、寮付きの学校を受験したりと就職や進学の選択肢が限られているのが現状だ。
県若人自立支援機構の関係者は、施設出身の若者が二十歳の成人を迎えるまでの二年間で住む場所をなくすと、社会から「転落」する可能性が高いと指摘する。ホームレスになったり、家を借りられない弱みを握られ、風俗などのサービス業で働くケースを耳にするという。
山本さんは、二年間暮らしたマンションの家賃を毎月、県若人自立支援機構専務理事の水鳥川(みどりかわ)洋子さん(67)に手渡しした。水鳥川さんは元児童相談所長。マンション近くのすし店で一緒に夕飯を食べながら毎月、学校の人間関係の悩みや実習先や就職後の家探しなどの相談に乗ってもらった。
山本さんは「金銭的に助かっただけでなく、学校やプライベートの悩みも話せたことが大きかった。私が施設出身だと知っている水鳥川さんだから、安心して話せた」と振り返る。
支援機構のメンバーで房総双葉学園(千葉市)の小木曽宏施設長(62)は、民法成人年齢を二十歳から十八歳に引き下げる法改正について、施設出身者が自らの判断で、一人暮らしの家を借りられるとして「一歩前進」と捉える。
一方で、成人の自覚を子どもたちに伝える難しさを課題に上げる。「家賃を滞納すれば、借金を本人が背負う。施設にいる間に、十八歳で責任が問われることを伝えきれるか」と不安そうに話す。
二〇一五年四月から保育士として働き始めた山本さんは、成人年齢引き下げで十八歳、十九歳の若者が親の同意なしに家の契約を結べるようになったとしても、課題は残ると言う。「施設出身者は人間関係が下手で、就職しても最初の職場を辞めることが多い。職を失って収入がなくなれば、借りた家も追い出されてしまう」 (黒籔香織)

<千葉県若人自立支援機構> 県内で児童養護施設などを運営する7法人が2011年に発足した協同組合。各法人の出資金などを元手に、低家賃マンションの貸し出しや、運転免許の取得費など資金の貸し付け、弁護士による法律相談などの事業を行う。対象は機構に加盟する法人が運営する施設出身者。4人がマンションを利用し、9人に資金を貸し付けた。