筆洗「セッシュ」といえば、登場人物の背をそろえるため、身長の低い人物を踏み台の上に立たせるという意味 - 東京新聞(2016年2月18日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016021802000143.html
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映画やドラマ制作の現場で、「セッシュ」といえば、登場人物の背をそろえるため、身長の低い人物を踏み台の上に立たせるという意味の符丁である。今も使われる。
米国から伝わったが、英語ではない。日本語である。日本人初のハリウッドスター早川雪洲(一八八六〜一九七三年)の名からきている。米国人に比べ、小柄だったので、ラブシーンでは「セッシュ」する必要があったそうだ。その名を使うとはちょっと失礼な話でもある。
雪洲の名を妙なところで耳にする。米グラミー賞の最優秀オペラ録音賞に選ばれた小澤征爾さん(80)指揮の歌劇「こどもと魔法」の中の曲。いたずら坊主に傷つけられた中国製のティーカップが歌う。<キャスカラ、ハラキリ、セッシュー・ハヤカワ。中国っぽいよね>
中国と日本を混同している。ラベル作曲、コレット作詞の「こどもと魔法」の初演は一九二五年だから、雪洲のスター期に重なるが、当時のアジアへの認識はこの程度だったか。
八回目のノミネートで初受賞というけれど、八度もグラミーの候補に挙がったことが偉大であろう。
雪洲は五八年、映画「戦場にかける橋」でアカデミー助演男優賞の候補になったが、残念ながら逃した。受賞歌劇を聴けば、小澤さんが、世界を相手に苦労した大勢のかつての日本人たちに「セッシュ」されて、星をつかんだ気がしてならぬ。