DNA型鑑定 法による規制の検討を - 毎日新聞(2016年1月18日)

http://mainichi.jp/articles/20160118/ddm/005/070/019000c
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DNA型鑑定の信頼性に対する裁判所の強い警告だ。
鹿児島市で2012年、女性に暴行したとして強姦(ごうかん)罪に問われた男性に対し、福岡高裁宮崎支部実刑判決を破棄し、無罪を言い渡した。
控訴審段階で実施されたDNA型鑑定の結果、女性の体内に残されていた精液が別人のものと判明した。判決は県警がDNA型鑑定の結果を隠していた疑いに言及し、裁判所に無断で秘密裏にDNA型鑑定を実施した検察の姿勢も厳しく批判した。
DNA型鑑定は、決定的な証拠になり得る。捜査機関が都合のいいように鑑定を扱っては、刑事手続きの公正さは保たれない。県警と検察は、鑑定の経緯を検証すべきだ。
県警は当初、「精液は微量でDNA型の特定は不可能」との鑑定結果をまとめた。だが、弁護側の請求を受けて行われた控訴審での再鑑定でDNA型は検出された。県警が鑑定に使ったDNA溶液の残りを全て廃棄したり、鑑定結果を記したメモを捨てたりしていたことも分かった。
こうしたずさんな鑑定の対応も踏まえ、高裁支部は「検出されたDNA型が被告の型と整合せず、鑑定不能とした可能性すら否定できない」と指摘するに至った。
また、被告に有利な再鑑定の結果を受け、検察は別の鑑定を実施し、貴重な鑑定試料を使った。判決は、こうした検察の姿勢にも「検察に有利な結果が得られなかった場合、鑑定したことを秘匿する意向があったのでは」と、厳しい目を向けた。
判決から読みとれるのは、捜査機関が恣意(しい)的にDNA型鑑定を扱うことへの裁判所の不信感だ。
DNA型鑑定の確度は近年飛躍的に向上し、同じ型の別人は「4兆7000億人に1人」の割合でしか出現しない。足利事件や東電女性社員殺害事件で、冤罪(えんざい)を晴らす決め手になったのは記憶に新しい。警察庁が運用するDNA型記録のデータベースの登録数は30万件を超えた。
心配なのは、DNA型試料の採取や保管など具体的な運用が警察任せになっていることだ。足利事件では、捜査機関がDNA型試料を使い切ってしまったり、保管がずさんだったりして批判を浴びた。DNA型鑑定は、決定的証拠になり得る一方で、ミスや故意により誤って扱われた場合、取り返しのつかない結果を招く。
一昨年、刑事司法改革案をまとめた法制審議会の特別部会では、採取や保管の方法を法律で規定することの必要性を複数の委員が指摘したが、議論は深まらなかった。
担当者以外の第三者の目を入れて適正な鑑定を確保することも必要だ。専門家を入れて法規制のあり方を本格的に検討すべき時だ。