新共通テスト 制度の安定性が肝心だ - 毎日新聞(2016年1月18日)

http://mainichi.jp/articles/20160118/k00/00m/070/085000c
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入学試験は確かな公平性の上に成り立つが、何十万人も受ける共通試験には制度の安定性、社会の理解と信頼もより重要になる。
現行の大学入試センター試験に代わり、2020年度から実施予定で設計が進められている新共通テスト(仮称・大学入学希望者学力評価テスト)も、そこが問われるだろう。
新テストの目玉は、暗記知識ではなく、思考力、判断力、表現力をみるという記述式問題の導入だ。
制度設計を論議している文部科学省の専門家会議は、記述式は、まず国語と数学で、マークシート方式の選択問題などを残したまま部分的に始めるとし、たたき台として「問題イメージ例」をいくつか示した。
たとえば、統計資料の一見矛盾するようなデータをめぐり交わされる議論で、発言者の論理を読み取り、議論の空欄部分を記述する。あるいは、新聞記事を読み、そのテーマについて本文に即しながら、自分の考えや提案を書く。
選択肢の中に正解は一つ、というマークシート方式ではできない設問である。しかし、乗り越えるべき課題は少なくない。
まず、これほどのマンモス試験で、当面、記述式解答の迅速・一律な採点をどうするか。
採点の人手の確保と、かかる時間も未知数だ。会議でもこれを懸念する声が出た。財政的に裏づけられる見通しもない。

肝心の「評価」も大変だ。
専門家会議は、採点しやすくするため、解答は自由記述ではなく、字数制限や書くべき項目など一定条件を付けた記述を想定している。それでも解答者の視点、思考過程、表現は多様であるはずだ。そこで公平性への信頼をどう確立するか。
いうまでもなく、上質な良問を安定的、継続的に作成することも、このテストの持続には欠かせない。
このため、制度設計の論議では、採点に手間を要する記述式テストは他のマークシート方式などと日程を切り離し、前倒しで実施する案が出ている。また、教育関連会社などノウハウのある民間との連携やコンピューター活用も考える。
前倒しは高校の授業日程に影響が大きく、反発がある。大学側には新テスト実施スケジュールにこだわらず慎重な論議を、という声もある。
専門家会議は年度末に最終報告を出すが、実現と持続のための安定的な制度設計を求めたい。
また、元来この改革は入試をはさみ高校・大学の教育を改め、主体的な思考と課題解決の学力育成を円滑に接続・推進することが主眼だ。
学校教育も転換をしなくては、新テスト導入の意味はないだろう。