「民間税調」提言 所得再分配を取り戻せ - 東京新聞(2015年12月9日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015120902000139.html
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所得や資産の再分配、格差是正こそ税制に託された使命だが日本はほとんど機能していない。政治家や役人中心で決めているからではないか。生活を豊かにする国民のための税制を取り戻すべきだ。
税制、財政、社会保障に詳しい学者や弁護士らでつくる民間税調が独自の税制改正案を発表した。税制を決めるのは何より納税者自身であること、健全な経済社会を築くには税を通じて格差縮小が不可欠だとの思いから、民間税調は二月に発足した。市民が参加するシンポジウムを九回重ね、意見交換しながらまとめた。
税制は毎年、政府・与党が財界や利益団体との「密室協議」を基に年末の数週間で実質的にまとめるのが慣例化している。目先の利害調整に拘泥し、膨らみ続ける社会保障費を抑える「税との一体改革」の議論は不十分極まりない。消費税増税など財源論ばかりで弱者の給付カットなど小手先の手直しでしのいでいるのが実情だ。
民間税調の提言の一つは、戦後の高度成長期につくられたまま制度疲労を起こしている社会保障制度を税と一体で抜本改革することだ。貧しい若者の負担で豊かな高齢者に年金が給付される一方、若者は将来十分な年金が得られない不公平な仕組みである。
改革の基本的な方向は、恵まれない人や制度の基礎的な部分に限って税を投入し、中高所得者には保険料による自助努力で対応してもらう。それでも財源が足りない場合には「消費税や保険料の引き上げもやむを得ない」とした。
提言の最も重要な点は、税本来の格差是正機能を取り戻し、経済協力開発機構OECD)加盟国で下位といわれる「所得・資産の再分配」を強化することである。
ただ、所得税や資産課税の最高税率を上げるだけでは現状では税は国外に逃避してしまう。国境を越えた租税回避を防ぐ手段が不十分なのだ。その分、限定的な改正の提言にとどまったのは残念だ。
当面は富裕層に有利な利子・配当所得の源泉分離課税の税率をかつてのように30%へ引き上げることや、半世紀前に決まった所得区分の見直し、さらに納税者が税制に無関心となる最大要因とされる「源泉徴収と年末調整制度」の廃止を提言した。自らの手で所得税の納税額を申告するのである。
現在二割に満たない申告納税が広がれば納税者の自覚は劇的に高まろう。不公平の是正は私たち全員の課題なのである。