(天声人語)「人々はだんだん賢くなってきている」と聞いても半信半疑だった - 朝日新聞(2015年9月18日)

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「人々はだんだん賢くなってきている」と聞いても半信半疑だった。4年前、デジタル革命の先端を行くマサチューセッツ工科大メディアラボの所長になった伊藤穣一(じょういち)さんにインタビューした時のことだ。
伊藤さんによれば、人々はネットでつながりを深め、質の高い議論を交わし始めている。その相互作用で独創的な新しいものが誕生する。これを「創発」という。民主主義にも応用できる。つながりが実際の行動に発展すれば新しい民主主義を生み、世の中が変わる、と。
政治が迷走する日本でも生まれるのか。伊藤さんは予言するように言った。「国民がやむにやまれず立ち上がるような事態が発生する」。確かに、その半年ほど前の原発事故で人々は立ち上がりつつあった。今、安保法案に反対する動きが勢いを増す。
カウンターデモクラシーという言葉がある。伝統的な代議制や政党政治に時に対抗し、時に補完する民主主義。それは選挙とは別の回路で多様な民意を反映させようとする。デモや集会が典型だ。伊藤さんの発想とも通じるところがある。
おととい、憲法学者の長谷部恭男さんが都内のシンポジウムでカウンターデモクラシーに触れ、「新たな民主主義が生まれている」と指摘した。国会で安保法案は違憲と断じ、政権与党に衝撃を与えた早大教授は、国会前や各地の光景に希望を見る。
古めかしい議事堂の中で無法がまかり通る。やむにやまれず立ち上がる人々は続くだろう。民意のもう一つの回路に向けて。