(余録)まず、立ったまましゃべり続けねばならない… - 毎日新聞(2015年9月18日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150918k0000m070137000c.html
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まず、立ったまましゃべり続けねばならない。水か牛乳は飲めるが、議場を出られないのでトイレに行けない。演説内容は議事にかかわりなくてもいい。これが元祖、米上院の長時間演説による議事妨害(フィリバスター)のルールという。
往年の名画「スミス都へ行く」では政治腐敗を追及する主人公が23時間半のフィリバスターを行うが、現実の最長記録はそれを上回る24時間18分という。多数派には何とも邪魔な慣行が維持されてきたのは、自分らが少数派になったときの貴重な抵抗手段ゆえである。
これに対してピケや座り込みなど物理的な野党の抵抗と、それへの与党の対抗を思い起こさせる日本の国会の“慣例”である。緊迫の攻防の中で迎えた安全保障関連法案の参院委採決も、最後は与野党議員がもみ合い、採決の声も聞こえないままの「可決」となった。
「民主主義は頭の数を数える方が、頭をたたき割るよりも良いという原理に立つ」といわれる。だが、いつ何について何をどう数えたのかも分からぬ採決だった。むしろ見た目は後者に近いもみ合いで物事が決まると子供たちが勘違いしはせぬかと心配になってくる。
ともあれあのもみ合いのわずかな間に「可決」されたのが、この国の安全保障政策を規定してきた10本もの法の改正と1本の新法案だと思えば、やはり釈然としない。本会議での野党の抵抗では日本で牛歩ならぬ牛タン戦術といわれるフィリバスターも飛び出るのか。
過去の米上院のフィリバスターでは時間稼ぎに憲法が読み上げられた。改めて心中で憲法条文を読み上げる国民も多かろう安保法案審議の最終盤である。<<