「違憲」安保法制 さあ、選挙に行こう - 東京新聞(2015年9月19日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015091902000158.html
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新しい安全保障法制により、日本はこれまでの平和国家とは違う道に踏み出す。この流れを止めるには投票で民意を示すしかない。さあ、選挙に行こう。
自衛隊が他国同士の戦争に参戦する集団的自衛権を行使できるようになり、これまでの「専守防衛」政策とは異なる道を歩みだす。これが新しい安保法制の本質だ。
戦争放棄日本国憲法に違反すると、憲法学者らが相次いで指摘し、国会周辺や全国各地で多くの国民が反対を訴えたが、与党議員が耳を傾けることはなかった。戦後七十年の節目の年に印(しる)された、憲政史上に残る汚点である。
◆公約集の後ろの方に
安倍晋三首相が新しい安保法制推進の正当性を裏付けるものとして持ち出したのが選挙結果だ。
首相は国会で「さきの総選挙では、昨年七月一日の閣議決定に基づき、平和安全法制の速やかな整備を明確に公約として掲げた。総選挙での主要な論点の一つであり、国民の皆さまから強い支持をいただいた」と答弁している。
確かに、昨年十二月の衆院選有権者は自民、公明両党に三分の二以上の議席を与え、自民党総裁たる安倍首相に政権を引き続き託したことは事実、ではある。
とはいえ「アベノミクス解散」と名付け、経済政策を最大の争点として国民に信を問うたのも、ほかならぬ安倍首相自身である。
首相が言うように、安保政策も主要争点ではあったが、自民党衆院選公約として発表した「重点政策集2014」で安保政策は二十六ページ中二十四ページ、全二百九十六項目中二百七十一番目という扱いで、経済政策とは雲泥の差だ。
集団的自衛権の行使」という文言すらない。これでは憲法違反と指摘される新しい安保法制を、国民が積極的に信任したとはいいがたいのではないか。
◆「奴隷」にはならない
もっとも、人民が自由なのは議員を選挙する間だけで、議員が選ばれるやいなや人民は奴隷となる、と議会制民主主義の欠陥を指摘したのは十八世紀のフランスの哲学者ルソーである。
政党や候補者は選挙期間中、支持を集めるために甘言を弄(ろう)するが、選挙が終わった途端、民意を無視して暴走を始めるのは、議会制民主主義の宿痾(しゅくあ)なのだろうか。
しかし、二十一世紀を生きる私たちは、奴隷となることを拒否する。政権が、やむにやまれず発せられる街頭の叫びを受け止めようとしないのなら、選挙で民意を突き付けるしかあるまい。
選挙は有権者にとって政治家や政策を選択する最大の機会だ。誤った選択をしないよう正しい情報を集め、熟慮の上で投票先を決めることは当然だ。同時に、低投票率を克服することが重要である。
安倍政権が進める新しい安保法制について、報道各社の世論調査によると半数以上が依然「反対」「違憲」と答えている。
そう考える人たちが実際に選挙に行き、民意が正しく反映されていれば、政権側が集団的自衛権の行使に道を開き、違憲と指摘される安保法制を強引に進めることはなかっただろう。
昨年の衆院選で全有権者数に占める自民党の得票数、いわゆる絶対得票率は小選挙区で24・4%、比例代表では16・9%にしかすぎない。これが選挙だと言われればそれまでだが、全有権者の二割程度しか支持していないにもかかわらず、半数以上の議席を得て、強権をふるわれてはかなわない。無関心や棄権をなくして民意を実際の投票に反映することが、政治を正しい方向に導く。
幸い、国会周辺で、全国各地で安倍政権の政策に異議を唱えた多くの人たちがいる。その新しい動きが来年夏の参院選、次の衆院選へとつながることを期待したい。
まずは自分が声を上げ、共感の輪を広げる。そして多くの人に投票所に足を運んでもらえるようになれば、政治が誤った方向に進むことを防げるのではないか。
来年の参院選から、選挙権年齢が二十歳以上から十八歳以上に引き下げられる。若い世代には、自らの思いをぜひ一票に託してほしい。それが自分たちの未来を方向づけることになるからだ。
◆民意の受け皿つくれ
野党にも注文がある。安保法制反対の共闘で培った信頼関係を発展させて、来年の参院選では安倍自民党政治とは異なる現実的な選択肢を示してほしいのだ。
基本理念・政策が一致すれば新党を結成して有権者に問えばよい。そこに至らなくても、比例代表での統一名簿方式や選挙区での共同推薦方式など方法はある。
野党が党利党略を優先させて、選挙にバラバラで臨むことになれば、民意は受け皿を失い、拡散する。そうなれば自民、公明の与党が漁夫の利を得るだけである。