(天声人語)憲法軽視も極まれり - 朝日新聞(2015年7月28日)

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法律を新しくつくるとは、建物を新築するかのような作業だという。用途に応じて機能的に設計すること。耐震強度などの法規制に従うこと。さらには町並みの景観などにも配慮すること。
阪田雅裕(まさひろ)元内閣法制局長官の編著書『政府の憲法解釈』に登場する例え話である。建物同様、法律もその目的を達成するために過不足ない内容であることに加え、憲法をはじめとする法体系、「いわば全体の景観との調和を図ることが不可欠」だと指摘している。
全体の景観との不調和、すなわち憲法違反だと批判される安保関連法案が、きのう参院で審議入りした。「違憲」の法律を成立させるわけにはいかない。憲法との関係に照準を絞った論戦を望む。
集団的自衛権は行使できない、から、行使できる、へ。憲法解釈を百八十度変えても、従来の理屈とつじつまは合っていると突っ張る。長年の解釈の蓄積を一片の閣議決定で葬り去っても、法的な安定性は保たれると強弁する。
説得力はなくとも、ともあれ全体の景観との調和は考えている。そんなポーズを政権は取ってきたが、驚くべき発言が飛び出した。礒崎陽輔(いそざきようすけ)首相補佐官が一昨日、考えるべきは我が国を守るのに必要な措置かどうかであり、「法的安定性は関係ない」と述べた。
これまでの言い繕いを台無しにする本音の言葉か。憲法解釈には論理的整合性と法的安定性が求められると言い続けてきたのに、実は初めから眼中になかったということか。憲法軽視も極まれり、である。