安保転換を問う 首相補佐官発言 - 毎日新聞(2015年7月29日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150729k0000m070180000c.html
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◇これが政権の本音では
安全保障法制を担当する礒崎(いそざき)陽輔首相補佐官から「法的安定性は関係ない」という、あきれた発言が飛び出した。憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を認めた安全保障関連法案は憲法違反との批判が高まっているのに、法秩序の安定性など関係ないと言っているかのようだ。
この問題は法案の本質に関わる。見過ごすことはできない。
礒崎氏は、5人いる首相補佐官の1人で、政府内で安保関連法案の作成に中心的に関わってきた。参院での審議入り前日の26日の講演で、集団的自衛権について「法的安定性は関係ない。わが国を守るために必要な措置かどうかを気にしないといけない」と述べた。
そもそも政府による憲法解釈の変更はどこまで許されるのだろうか。
全く変更してはいけないわけではないが、それには限界がある。従来の憲法解釈との論理的整合性と法的安定性が保たれている必要がある。政府が便宜的、意図的に憲法解釈を変更すれば、国民が憲法を信頼しなくなるからだ。
だからこそ、安倍政権は今回の憲法解釈変更について、1972年の政府見解などを根拠に「これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性、法的安定性は保たれている」という理屈を立て、合憲性を主張してきたはずだ。礒崎氏の発言はそういう政権の見解とも矛盾している。
参院審議では、引き続き憲法と安保関連法案との整合性が中心的な課題になる。それなのに審議が始まろうという時、首相の周辺から憲法を頂点とする法秩序をないがしろにするような発言が飛び出した。
礒崎氏は法案の成立について「9月中旬までに終わらせたい」とも語った。参院審議をも軽視している。
この問題が深刻なのは、発言が、安倍政権の本音ではないかと疑われることだ。
憲法学者が法案は違憲と指摘した際、自民党幹部から「学者の言う通りにしていたら、自衛隊日米安保条約もない。平和と安全が保たれていたか疑わしい」と反発が出た。安保政策は憲法に優先すべきで、法秩序が犠牲になっても構わないとでも言いたいのだろう。今回の発言はこれに通じるものがある。
安倍晋三首相はきのう、礒崎氏の発言について「憲法とともに安保環境の変化を踏まえる必要があるとの認識を示した発言だ」とかばい、民主党からの更迭要求を拒んだ。
礒崎氏は発言を撤回すべきだが、仮に撤回したとしても、この政権が憲法を軽んじているという疑念は消えない。