(筆洗)日々、コラムを書くのは大変ですねとよくいわれるが - 東京新聞(2015年7月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015071602000138.html
http://megalodon.jp/2015-0716-0952-54/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2015071602000138.html

日々、コラムを書くのは大変ですねとよくいわれるが、さほどでもない。秘密がある。小欄の部屋は地下の秘密基地につながっている。ここには膨大な量の「単語連想式メモ」が蓄えられている。
ネコに関する悲しい内容のコラムを書かなければならないとする。筆者はロボット執事「筆洗4号」を呼び、「ネコ」「悲しい」と告げる。執事はまたたく間に、古今東西の「悲しい」「ネコ」に関するメモ、文献を探してくれる。
さて問題が発生した。昨日のことである。安保関連法案が衆院特別委員会で強行採決された。この日の題材はこれしかない。
いつものように執事を呼び、「集団的自衛権」「強行採決」「混乱」と告げ、ほんの遊び心で政府与党の常とう句である「国民の安全」と「丁寧な審議」と付け加えた。今、考えるとこれが間違いだった。
いつもより時間がかかった上、持ってきたのは数枚のメモ。一枚目は「阿呆(あほう)はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている」。芥川龍之介の「河童(かっぱ)」だが、ひねりが足らぬし、どうも不穏当だ。別のを。「人間というのは権力という酒で狂ってしまったチンパンジーなのだ」(米作家カート・ヴォネガット)。使えないと叱ると執事は煙を噴いて倒れた。
哀れな4号は矛盾だらけのキーワードに耐えられなかった。やむを得ない自分で書くか−。と書いたところで目が覚めた。