(天声人語) 侮辱とは、人前で相手を見下して恥をかかせることをいう - 朝日新聞(2015年7月16日)

http://www.asahi.com/paper/column.html?iref=comtop_pickup_p
http://megalodon.jp/2015-0716-0951-19/www.asahi.com/paper/column.html?iref=comtop_pickup_p

侮辱とは、人前で相手を見下して恥をかかせることをいう。よく似た侮蔑という言葉より程度がひどいという。後者は表情や態度に表れる場合が多いが、前者は具体的な言行を伴う。中村明著『日本語 語感の辞典』による説明に得心が行く。
その侮辱が三つも重なるというのだから罪深い。集団的自衛権を行使できるとした安倍政権の憲法解釈変更について、憲法学の権威、樋口陽一さんは「三重の侮辱」だと批判した。有識者がつくる「国民安保法制懇」の13日の記者会見で語った。
第一に国会審議への侮辱である。9条の下では集団的自衛権は使えないとする従来の解釈は、何十年にもわたる国会論戦の中で確立されてきた。その積み重ねを一気に吹き飛ばしたのが、昨年の閣議決定であり、安保関連法案だ。
第二に最高裁判例への侮辱である。解釈変更の根拠として、米軍駐留の合憲性が問われた砂川判決が挙げられる。樋口さんの見るところ、これは牽強付会(けんきょうふかい)にもなっていない議論で、学生の答案であれば落第だ。
第三は歴史に対する侮辱である。戦後体制(レジーム)からの脱却を図る首相の歴史認識の危うさに触れ、それが法案につながっていると指摘した。樋口さんの分析は問題の大きさと深さを摘出して鋭利だ。
きのうの採決強行で、さらに侮辱が重ねられた。民主主義そのものへの侮辱である。国民の理解が進んでいないことを認めながらの暴挙は国民に対する侮辱でもある。怒りの声がいよいよ高まり、広がるのは必定だろう。