新国立競技場 代償伴う愚かで無責任な決定 - 読売新聞(2015年7月9日)

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財源のメドすら立たないまま、建設へと突き進む。あまりに愚かで、無責任な判断である。
2020年東京五輪のメイン会場となる新国立競技場を巡り、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)の有識者会議が、2520億円を投じる建設計画を承認した。
JSCは近く、大手ゼネコン2社と契約を交わし、10月に工事を始めるという。ラグビーワールドカップに間に合わせるため、19年5月に完成させる予定だ。
工費は、基本設計時の1625億円から約900億円も増えた。五輪後に先送りした開閉式屋根の設置費などを加えれば、さらに膨らむ。財政難の中、12年ロンドン五輪のスタジアムの4倍以上も費用をつぎ込むとは、あきれる。
工費膨張の最大の要因が、2本の巨大アーチを用いた特殊な構造にあることは、はっきりしている。なぜ、コスト削減のために、基本構造を見直さなかったのか。いったん決まったら、止まらない公共事業の典型と言えよう。
類のないデザインだけに、工事が計画通りに進む保証もない。
有識者会議に出席した東京五輪パラリンピック組織委員会森喜朗会長や遠藤五輪相、舛添要一東京都知事らが着工にお墨付きを与えたことは、理解に苦しむ。
JSCのずさんで危うい対応をたしなめ、軌道修正するのが、本来の役割のはずだ。
工費や工期、工法を巡る迷走について、下村文部科学相は「責任者がはっきり分からないまま、来てしまったのではないか」と、とぼけている。JSCを所管する文科相こそが責任者だろう。
財源として確保できているのは、国費とJSCの基金スポーツ振興くじ(toto)の売り上げの一部だけだ。合わせても工費の4分の1に満たない。
遠藤五輪相は8日、東京都としての工費負担を舛添知事に要請した。都民の税金を拠出する必要や法的根拠があるのかどうか、知事は慎重に判断せねばならない。
下村文科相は、命名権の売却収益も工費に充てる方針だ。国を代表する競技場に企業名などを冠することには、違和感を覚える。
新国立競技場の完成後も、維持管理に膨大な費用を要する。50年間に必要な大規模修繕費は、当初見込みの656億円から1046億円に跳ね上がるという。その財源は、どう捻出するのか。
東京五輪の「負の遺産」として、将来世代にツケを回すことは、決して許されない。