「電通」特集 新国立観客席数8万は再開発のためのウソだった 五輪は再開発利権のダシに使われたなど - 週刊エコノミスト(2016年8月23日号)

http://www.weekly-economist.com/2016/08/23/%E7%89%B9%E9%9B%86-%E9%9B%BB%E9%80%9A-2016%E5%B9%B48%E6%9C%8823%E6%97%A5%E5%8F%B7/
http://megalodon.jp/2016-0816-1001-48/www.weekly-economist.com/2016/08/23/%E7%89%B9%E9%9B%86-%E9%9B%BB%E9%80%9A-2016%E5%B9%B48%E6%9C%8823%E6%97%A5%E5%8F%B7/


電通の外苑再開発企画書
発端は、電通が作成した『GAIEN PROJECT「21世紀の杜」企画提案書』だ。A4用紙10枚構成で、表紙に「平成16年6月 dentsu」とある。「都志(ママ)再開発のすすめ」として、野球ドーム、陸上競技場、複合スポーツ施設、業務施設の整備をうたう。オリンピック誘致や国立競技場の新設も盛り込んである。依頼主は記されていない。
五輪やW杯は再開発のきっかけに過ぎず、新国立競技場も脇役で、主役は神宮外苑再開発という巨大利権のシナリオを電通は描いたのか。「電通にそんな力はもうない」と一笑に付すのは、民主党(当時)政権時代に副文部科学相を務めた鈴木寛文科相補佐官だ。通商産業省(現経済産業省)から大学教授を経て、政界入り。20年五輪や22年サッカーW杯招致に携わるなど国際スポーツ外交を展開した。
鈴木氏は、8万人規模の競技場建設にこだわった理由を情熱的に説明する。「英国ロンドンのウェンブリースタジアム(観客席9万人)を念頭に、東京をソフト面で再開発する拠点のひとつと考えた時、新国立競技場はあの場所に必要だった」。
森元首相の信頼厚い鈴木氏は、明治神宮の中島精太郎宮司に再開発への協力を求めた。「景観や日本青年館の取り扱いで、もっともな要望を受けた再開発に前向きな考えをいただいた」という。

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東京オリンピックパラリンピック組織委員会はJOCと東京都が設立した。JOCとJSCは文部科学省の影響が強い。また、武藤敏郎組織委事務総長は森首相時代の大蔵(後に財務)次官だ。組織委理事の川井重勇都議会議長、高島直樹元都議会議長は同じ自民党だ。すべての人脈は森元首相につながる。森元首相に取材を申し込んだが、組織委は「日程が詰まっており、取材を受けることはできません」と拒否した。
五輪利権に切り込む機運は高まっている。
小池百合子知事は8月2日の就任会見で「都政ファースト」を掲げ、情報公開とオリンピック・パラリンピックの調査チーム設置を表明した。 ならば都市整備局をまず調査すべきだ。同局は4月1日付の「神宮外苑地区まちづくり」関連の公文書開示請求を拒否した。「未成熟な情報が(中略)誤解される」ことなどを理由に挙げる。
また、同局は1月、都営アパート住民へ水道供給停止をほのめかす文書を送った。行政指導に従わないことを理由に水道供給を拒めないとの最高裁判例を知りながら、住民に移転を迫るのはなぜか。何もかもが「五輪第一主義」に染まる。
IOCは8月3日、20年東京五輪で野球などの復活を決めた。地権者のJSCと明治神宮は、神宮球場建て替えを打ち出す可能性が高い。
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電通が今回の件にどう関わったか、現時点では不明だが、利権や圧力と結び付けられる空気は、他ならぬ電通自身が育んできた。
戦前は新聞、戦後はラジオ・テレビと、時代時代に伸長した広告媒体を利用し、電通は成長した。電通は広告枠を買い取るリスクを取って、競争を勝ち抜いた。
高度経済成長時代を迎え、広告主の企業が規模を拡大し、テレビの視聴者が増え、消費者が次の商品を求めるサイクルが起きると、電通の「クライアント・ファースト(広告主第一主義)」は、広告主に抜群の効果を発揮した。また、広告主に不利な記事を差し止めることで重宝された。今回の特集取材で多くの人がそう証言する。
だが、現在のビジネス環境で、昔同様に記事差し止めや広告出稿中止、下請けからのキックバックを行うことは、刑法や下請け法に違反する行為そのものだ。コンプライアンス(法令順守)を無視することは、上場企業の電通に許されない。
また、電通が事業を伸ばしてきたスポーツ・マーケティングも潮目が変わった。FIFAの汚職東京五輪招致の汚職疑惑に外国政府の司法のメスが入り、イメージダウンを恐れるスポンサーは強い不満を示す。広告効果そのものが低下すれば、電通のビジネスモデルは成り立たない。国際スポーツ汚職電通の経営を揺るがしている。