少年法の年齢 引き下げ論は安易だ - 東京新聞(2015年7月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015070602000141.html
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少年法の適用年齢を十八歳未満に引き下げる案が浮かんでいる。選挙権年齢を十八歳以上としたのに合わせる狙いだ。非行少年の立ち直りと再犯防止に有効な現行制度を安易に変えるべきではない。
自民党が特命委員会を設けたのは、選挙権年齢を「十八歳以上」に引き下げる改正公職選挙法の成立を受けたためだ。成人年齢を二十歳と定めた民法とともに、少年法の適用年齢を引き下げる検討に着手している。
あたかも「大人の年齢」を十八歳というラインで統一しようとしているかのようだ。このような安直な発想で議論が進められることには反対する。
少年はもともと人間として未熟であり、生まれ育った不遇な環境などが非行と深く結びついているケースが多い。そのため、性格の矯正や環境の調整を追求するのが少年法の目的である。
そもそも現在、「二十歳未満」としている少年法の年齢を「十八歳未満」とする根拠をどこに求めればいいのだろうか。警察白書をひもとけば、少年非行の検挙人員は年々、減少している。殺人や強盗、強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪も、一九六〇年代のピーク時と比べ、12%以下にまで減少している。
少年非行が凶悪化しているというデータはどこにもない。むしろ、十八歳未満とした場合に起きる不利益を考えるべきだ。少年事件はすべて家庭裁判所が事件の調査をする定めだ。少年鑑別所において約四週間、心理学や教育学、社会学などの科学的な見地から鑑別調査が行われる。
同時に家庭裁判所でも調査官が非行少年や両親などに面接したり、学校や勤務先で聞き取りするなどの調査が行われる。人間行動科学に基づくデータを踏まえて、非行の原因を探り、背景を解明し、その少年にとって最適な処遇方法を考えるのだ。その結果として、少年院に入ったり、保護観察になったりする。
適用年齢が引き下げられると、少年被疑者の約40%がこの少年司法手続きから排除されてしまう。
たんに刑事手続きによる処分だけで終わり、非行の原因や背景を突き止めることはなされない。立ち直りの処方箋は示されない。
少年法は近年、何度も厳罰化の方向で改正された。だが、厳罰化は再犯防止に逆効果だとする米国の調査結果も存在する。選挙権年齢と少年法の年齢を連動させる必要性はないと考える。