少年法論議 教育力で立ち直りを - 東京新聞(2017年11月15日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017111502000168.html
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少年法の適用年齢を十八歳未満に引き下げる−、こんな法相の諮問を法制審議会が受けている。成人年齢も十八歳にし、統一を図るという考えは単純すぎる。少年法の理念を深く考えるべきだ。
少年事件が起きるたびに、報道などに触発されて、多発化、凶悪化していると誤解している人も多かろう。実は正反対で少年非行は急激に減少しているのが実態だ。
警察白書によれば、検挙者数のピークは一九八三年で、そのときと比べると二〇一五年は80・2%も減っている。重大事件や凶悪事件の件数も減少していて、殺人や傷害致死は六一年のピーク時から89・7%も減っている。十八歳や十九歳の少年も同じ傾向だから、特別な対策をとらねばならない状況にはない。
現行の少年法などに基づく施策が機能している証左ではないか。うまくいっている制度をわざわざ改変する必要がどこにあるのか。
現在、政府は成人の年齢を十八歳とする法案の用意がある。既に選挙権年齢は十八歳とした。現在二十歳未満の少年法の対象を十八歳未満に引き下げることが論議されるのは、「国法上の統一」が狙いといわれる。
だが、それぞれ目的が異なる法律である。少年法は非行を犯した者に単に刑罰ではなく、教育力による健全な成長と再犯防止を目的としている。若い力があるゆえに、その変わりうる可能性を重んじているのである。ドイツでも選挙権年齢と成人年齢は十八歳だが、少年裁判所法の適用年齢は二十一歳未満なのは、そのためだ。
仮に十八歳未満に引き下げれば、現在のほぼ半分の事件が少年法の手続きの対象外となる。つまり家庭裁判所の調査官らによる成育歴や心身の状況、家族や交友関係などの調査、さらに少年鑑別所での心理学など科学的な調査などが受けられない。ほとんどが起訴猶予処分となろうが、そこには教育的な働き掛けが存在しない。これは十八歳・十九歳の再犯を増加させる契機になりかねない。
再非行少年率は高まる傾向にある。現行制度でもまだまだ不十分な点はあるのだ。法制審では年齢引き下げ問題は現在、棚上げ状態になっているが、そのような現状で教育が介在しない刑罰を少年に与えるような制度改正があってはならない。再非行に走らぬように自らの力で、そして周りが手助けする。非行を犯した少年に必要なのは、立ち直る教育だという原点を忘れないでほしい。