「安全神話」は国を滅ぼす(1)——霧の中に隠し続けた原子力のリスク(佐々淳行さん)-nippon.com(2015年4月14日)

http://www.nippon.com/ja/features/c01901/

教訓となる事件・事故がどれほど起こっても、日本の危機管理に進歩はなかった。「安全神話」がすべてを覆い隠してしまうからだ。中でもはなはだしいのが原子力。3.11で最悪の危機が現実のものになるまで、問題を直視するきっかけはいくつもあった。しかし日本は国として逃げて回った。警察庁警備課長として関わった原子力船「むつ」迷走航海以来、日本の主要原子力事故を間近に見てきた危機管理の第一人者が、日本の原子力安全神話の噴飯ものの実態を明らかにする。

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ところが、原子炉の遮蔽壁に設計ミスがあり、微量の放射能漏れが発生した。技術開発の世界では初期不良はつきもので、常識的なレベルの対処法を準備してさえいれば、それで済んでいたはずだった。この場合、板状の鉛で隙間を埋めればよいだけだった。しかし、技術的に問題ないという前提だった「むつ」には、そのような準備は何もなかった。

そこで航海中の「むつ」がやむを得ず採った処置というのが、驚いたことに夜食用のおにぎりで問題の隙間を埋める、というものだった。それも最初は、誰もが近づくのを嫌がったので、投げつけるという方法だった。当然うまくいくわけがないので、今度は下っ端の若い研究員が指名され、近づいて手で隙間を埋めた。この際、水杯を取り交わしたという。ともかく、このような人たちが原子力開発をやっていたのかと思えるほど、惨憺たる状況だった。

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原発地震対策の可能性も役所が握りつぶしていた
この事故の直前、阪神淡路大震災の発生時に、田中眞紀子さんが科学技術庁長官だった。この方だけが、「原子力発電所地震ではまったく大丈夫だとみんないっているけれど、本当に大丈夫なんですか。調べたらどうですか」と提案した。そうすると、そういう調査を始めたとなると、やはり地震に弱いんだといううわさが出て、原子力発電所反対運動に火がつくという理由で、役所を挙げて「地震の影響は絶対ない」と頑張ってしまった。しかも、科学技術庁の事務方がいうことを内閣が支持してしまった。

あのときに地震との関係を調べるべきだった。そうすれば、3.11の福島第一原子力発電所の事故は防げた可能性が高い。