難解? ブレヒト戯曲 なぜ学校で? 「本物」は子どもに届く:放送芸能-東京新聞(2015年3月26日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2015032602000177.html
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ドイツの亡命劇作家ベルトルト・ブレヒト(1898〜1956年)の戯曲「肝っ玉おっ母とその子供たち」を、中学や高校で演じ続ける「東京演劇集団風(かぜ)」(東京・東中野)。訪れた学校は、東北から九州まで今年2月で420校に達した。昨年9月からは小学校でも始めた。哲学的で難解ともいわれるブレヒト劇。なぜ子どもの前で演じるのか。 (五十住和樹)

風の創設(一九八七年)メンバーで、代表作のほぼすべての演出を手掛ける芸術監督浅野佳成(64)は「観客との対話の中で質の高い舞台を育てるという劇団が理想とする演劇空間が、子どもたちを対象とした公演にあった」と言う。

ナチスから逃れるためドイツを出たブレヒトは一九三九年、この戯曲を書いた。四一年にスイスのチューリヒで初演され、戦場で生きる庶民の姿を描いた名作として評判になった。ほろ車を引き軍隊相手に行商をし、三人の子とたくましく生きる母親が主人公。戦争に行かせたくない一心での行商だが、三人の子は結局戦争の犠牲に。それでも戦争を相手にした商売をやめることはできない。平和の尊さと、どんな苦境でも力強く生きる姿が語られる。

風では、九九年の拠点劇場旗揚げで上演して以来のレパートリー。「ブレヒトから学んだのは、観客の考えたり想像したりする力を使って舞台を成立させ、高めること。観客に眠っている力を刺激するために、台本も演出も芝居も舞台装置も、新たな試みを繰り返してきた」と浅野は言う。

学校での劇団公演では、子どもに分かりやすく身近に感じる戯曲が選ばれるケースが多く、ブレヒト劇で学校をめぐる劇団は他にはない(浅野)という。

昨年九月、体育館で全学年が鑑賞した神奈川県伊勢原市立竹園小学校。五年生の感想文には「戦争は理不尽だと思います」「この日の感動を忘れず、命を大切に生きていきたい」などの言葉が並んだ。桑原裕彦教頭(56)は「難解だと思ったがあえて挑戦した。子どもの見る力、考える力は思った以上だった」と話す。

卒業前の行事として三年生が鑑賞した杉並区立東田中学校。福田鉄雄校長(60)は「内容的には難しいが、人生や生き方を考える演劇を見せたかった」と言う。

学校公演ではラストシーンで、子どもや先生が出演してブレヒトの詩を朗読する。「あとから生まれてくる人たちに」で、原詩にオリジナルを加えてアレンジした。上演前に学校で開くワークショップで、劇の内容を説明し、朗読のリハーサルなどをする。

浅野は「小学生への上演は劇団にとっても勇気がいった」と打ち明ける。だが「こう見るべきだと押しつけるのでなく、観客一人一人の見方を舞台に流れる空気で感じるところにやりがいがある。自分たちがやっていることが本物なら、小学生でも何かを感じてくれる」と話している。
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東中野の「レパートリーシアターKAZE」での「肝っ玉−」の上演は来年三月の予定。四月三日からは「なぜヘカベ」(マテイ・ヴィスニユック作)を上演する。問い合わせは風=(電)03・3363・3261。