細菌兵器を開発 秘密機関 「登戸研」の暗部、伝えなくては - 東京新聞(2015年8月8日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015080802000253.html
http://megalodon.jp/2015-0809-1159-53/www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015080802000253.html

戦前、現在の川崎市多摩区にあって、細菌兵器などの研究開発が行われた旧陸軍の秘密戦研究機関「登戸研究所」の活動を伝える朗読劇を、川崎市民らでつくる「登戸研究所保存の会」がつくった。戦後七十年の節目に際し、保存会は「教科書で教わらない、秘密と軍事が生み出す脅威を子どもたちに伝えたい」と上演依頼を募っている。 (山本哲正)
「殺したことがすぐ分からないよう、時間がたって効き目が出る毒を研究した」。研究所の所員がこう告白し「人を殺すのはいけないと思っていた人間も、戦争になると平気で人を殺す」と語る。朗読劇の一場面だ。タイトルは「ヒマラヤ杉は知っている」。研究所が設けられた一九三〇年代後半から、研究所のそばにあって、現在も残る杉にちなんだ。
毒物や細菌兵器、風船爆弾を開発したが、所員は口止めされた。戦後、跡地の一部を取得した明治大は二〇一〇年、残っていた研究所一棟を資料館とし、風船爆弾の模型などを展示している。
保存会の代表世話人中央大学姫田光義名誉教授(中国近現代史)=多摩区=は「歴史的見解が分かれるなどと言って、戦争における加害は教科書でしっかり扱われていない」と言い、資料館を見学に訪れた子どもを案内する活動に力を入れる。
ただ、せっかく見学しても「難しくて分からない」という子どももおり、昨年は登戸研をイラストなどで紹介する絵本(B5判カラー四十八ページ)を刊行。さらに編集を担当した多摩区の元小学校教諭今野淳子さん(68)が「子どもが集団で観劇したら、感想を述べ合って理解が深まるはず」と、吉川由香子・元関東短大専任講師(演劇・表現教育)に絵本を原作とする朗読劇(約二十分)を作ってもらった。
劇は、保存会員や知人ら五、六人が出演。白衣を着て所員になり「中国で捕虜らの人体実験をした」などと証言する。「戦争になれば科学者も巻き込まれることを分かってほしい」と今野さん。子どもに分かりやすいよう、スクリーンに風船爆弾など絵本のイラストを映し出す。
これまでに明治大生田キャンパスで二回上演し、県内の子どもたち約八十人が観劇。登戸研の存在を初めて知る人も多く、劇中に出てくる実験動物たちの慰霊碑を「見てみたい」と関心を持つきっかけになっている。「科学は人を助けるためにある。殺すために使うなんて、ひどい」(中学二年男子)という感想も。

参考)
映画「陸軍登戸研究所