自衛隊の統制 文民の理性が問われる-東京新聞(2015年3月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015031302000133.html
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政治が軍事に優先する文民統制シビリアンコントロール)は民主主義国家の基本原則だ。その原則を揺るがすいかなる試みも許されない。自衛隊を指揮・監督する文民の理性が今、問われている。

自衛隊を指揮・監督する最高の権限を有する首相や、自衛隊の隊務を統括する防衛相ら閣僚は憲法上、文民でなければならない。自衛隊の定数や主要組織、活動内容は国民を代表する国会が法律や予算の形で議決し、防衛出動など自衛隊出動の可否も決める。

自衛隊は自らの判断で出動せず国民の意思に服する仕組みだ。

憲法下で、旧軍が「天皇統帥権」を盾に内閣の統制が及ばない範囲を広げ、破滅的な戦争に導いた反省に基づく。その一部が変えられようとしている。

防衛省自衛隊には「背広組」と呼ばれる内部部局の官僚と「制服組」の自衛官が属する。

現行の防衛省設置法は、防衛相が各幕僚長に指示などを出す際、官房長、局長ら「背広組」が防衛相を補佐すると定める。「文官優位(統制)」とされる仕組みだ。発足当初は旧軍出身者が多く、文官優位の規定は、文民統制の重要な手段と位置付けられてきた。

政府が提出した改正案は、この規定を改め、各幕僚長らは官房長らと対等な立場で防衛相を補佐する、としている。

政府側は、自衛隊の迅速な運用が可能になると説明する。文官優位への不満を抱き続けてきた制服組の悲願でもあったのだろう。

国会で法律が成立すれば、実力部隊を擁する制服組の政治に対する発言力が増すことになる。それが文民統制に悪影響を与えることはないのか、国会では慎重かつ周到な審議が必要だ。

もっとも、制服組自身が自衛隊の派遣に積極的で、文民や背広組がそれを抑えている、という前提自体が誤りなのかもしれない。

集団的自衛権の行使容認や恒久法制定、地理的制限の撤廃など自衛隊の海外活動拡大に積極的なのは安倍晋三首相ら文民であり、後押しするのが背広組である一部の防衛・外務官僚だからだ。

憲法下でも軍事予算は議会の議決事項だった。文民統制を機能させることができるのは結局、首相や閣僚はもちろん、国民の代表たる国会議員の理性と覚悟、それを選ぶ国民の良識である。

理性ある文民を選ばなければ、国民生活が軍事の犠牲に再びなりかねない。先の大戦の教訓に学ぶべきは私たち国民自身でもある。