自衛隊制服組 性急な権限拡大を憂う - 東京新聞(2016年2月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016022302000134.html
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防衛省内で自衛官を中心とする統合幕僚監部が権限の大幅移譲を求めている、という。実力組織の性急な権限拡大は文民統制を危うくし、自衛隊への国民の信頼を損ねることにならないか、心配だ。
かつて防衛省自衛隊には一九五四年の発足から昨年まで採用されていた仕組みがあった。「文官優位(統制)」である。
防衛相が各自衛隊を監督する各幕僚長に指示を出す際、官房長、局長ら「背広組」と呼ばれる内部部局(内局)の官僚が防衛相を補佐する規定だ。
自衛隊発足当初は旧軍出身者が多く、文官優位の規定は、政治が軍事に優先する「文民統制シビリアンコントロール)」の重要な手段と位置付けられていた。
この文官優位の規定を変えたのが、安倍内閣による防衛省設置法改正である。この改正で各幕僚長らは官房長らと対等な立場で防衛相を補佐することになった。
制服組の悲願でもあった文官優位規定撤廃の影響なのだろう。統合幕僚監部(統幕)がこれまで内局の運用企画局が担っていた「統合防衛及び警備に関する基本計画」策定に関する権限を、同局の廃止に伴って統幕に移譲するよう内局に求めている、という。
有事に備えて、軍事専門的な見地から計画を策定することは必要だろうが、自衛隊は世界有数の防衛力を持つ実力組織だ。軍事的合理性だけではない、抑制的な対応も同時に求められている。
特に、今後の計画には、集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法や、昨年四月に再改定された日米防衛協力の指針(ガイドライン)の内容が反映される。
内局を排して軍事専門家である統幕だけで計画を策定することになれば、実力組織がいよいよ独走を始めたのかと、国民に受け取られても仕方があるまい。
自衛隊はこれまで国民に高い信頼を得てきた。内閣府による二〇一五年一月の世論調査では、国民の九割以上が自衛隊に「よい印象を持っている」と答えている。
これは一朝一夕で得られた数字ではない。旧軍の暴走で国民を破滅的な戦争へと導いた反省から、戦後は憲法九条の下、専守防衛に徹し、抑制的な防衛力整備に努めてきた結果でもある。
統幕への権限移譲が直ちに文民統制を脅かすことにはならないのだろうが、実力組織が急いで権限を拡大すれば、国民の誤解を招き、信頼を傷付けることになりかねない。慎重な対応が必要だ。