川崎殺人事件と新潮報道の問題点(三田次郎さん)-BLOGOS(2015年3月4日)

http://blogos.com/outline/107044/

川崎の中学1年生殺人事件を受けて、例によってネット上では「許せない」だの「加害者も再起不能にせよ」だの「極刑を望む」だのといった正義感満点のコメントがあふれている。

ネット上だけだと思いきや、自民党の稲田政調会長が27日「犯罪を予防する観点から今の少年法の在り方でいいのか課題になる。」「少年が加害者である場合は(報道機関が)名前を伏せ、通常の刑事裁判とは違う取扱いを受けるというが、(少年犯罪は)非常に凶悪化している。」などと述べている。(ソース、産経新聞

川崎中1殺害 少年法見直しも含めた検証が必要 自民・稲田氏 - 産経ニュース(2015年2月27日)
http://www.sankei.com/politics/news/150227/plt1502270026-n1.html
http://megalodon.jp/2015-0305-1123-51/www.sankei.com/politics/news/150227/plt1502270026-n1.html

自公政調会長少年法改正に言及 川崎の殺害事件受け - 朝日新聞デジタル(2015年2月27日)
http://www.asahi.com/articles/ASH2W5QVSH2WUTFK014.html
http://megalodon.jp/2015-0305-1126-59/www.asahi.com/articles/ASH2W5QVSH2WUTFK014.html

よく知られるように、少年による戦後の凶悪犯罪件数は1958年から66年までがピークで、それ以降は急減。
97年から増加傾向に転じるが(その多くが強盗であり)、98年以降は微増減があるものの概ね同じ水準で推移している。
2013年以前の直近の4年間では刑法犯少年は4年連続で減少。包括犯種では、知能犯及び風俗犯(特に出会い系サイトを利用した福祉犯)が増加し、凶悪犯、粗暴犯及び窃盗犯は減少している。

少年犯罪は「平成16年(2004年)から毎年減少し続けており,25年(2013年)は 9万413人(前年比10.6%減)となり,昭和21年(1946年)以降初めて10万人を下回った。人口比についても,平成16年(2004年)から毎年低下し,25年(2013年)は,763.8(前年比84.5pt低下)となり,最も人口比の高かった昭和56年(1981年)(1,721.7)の半分以下になっている」
法務省犯罪白書平成26年版(28ページ参照)(PDF)
http://urx.nu/i5He

少年法の厳罰化と犯罪抑止の相関関係については、明確なエビデンスはない。
専門家の間では厳罰化より更生措置の拡充の方が、犯罪抑止力の効果は大きいとする意見が大勢。
一方、素人の多数及びその阿諛者では厳罰化を支持する意見が多数を占める。

(専門家でも前田雅英東京都立大学教授は米国の少年法厳罰化効果について「有り」との判断を下しているが、立命の葛野らの反論にあっている。)

どうして彼らは厳罰化を望むのか。

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さて、厳罰化政策が社会の安定にとって正解かどうかは措くとして、先進国中でも飛びぬけて治安のよい日本でなぜこれほどまでに厳罰化が叫ばれるのか、という論点を俎上に載せた場合、①での考察で見たように身近な実体験よりも意見形成に対する影響力の大きいメディアの特徴を挙げないわけにはいかない。

多くの場合、生活保護バッシングや死刑積極推進論、人質自己責任論などの主張の背後にはマクロ的構造的な政策論はなく、「応報感情の共有と消費」という井戸端会議的な消耗があるだけなので、議論のテーマ(ニュースのタイトル)はめまぐるしく変わる。

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ともあれ、この事件も1年後にはほとんど忘れ去られ、また新しい人々の応報感情を充足させるニュース(定番は日中韓をグルグル回っているアレ)が次々と現れるだろう。

構造的な問題解決に対する目的は忘れ去られたまま。