愛国歴史教育に対する「米高校生の異議申し立て」が勝利した日(冷泉彰彦さん)-ニューズウィーク日本版(2014年10月14日)

http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2014/10/post-684.php

チェイニー氏はまず「建国の歴史」に関して「トーマス・ジェファーソンの理想主義とか、権力への牽制」といったエピソードではなく、「独立戦争の苦しい戦いを勝利に導いたワシントンの勇気」を前面に出して教えよとか、ベトナム公民権の話ばかり教えるのはバランスを欠くなどという主張を「運動」にしたのです。

更にチェイニー氏の前にフランシス・フィッツジェラルドというジャーナリストは79年に出した『アメリカ史の改善(America Revised)』という本で、「歴史教育では、紛争や対立のことを教えるのではなく、権威の尊重や、社会的合意の尊重を教えるべき」というまるで、日本の道徳教育論や中国の愛国教育のような主張をしていました。こうした考え方も現在の「保守的な歴史教育観」の中に引き継がれています。

アメリカの場合は、全国統一の教科書検定という制度はなく、カリキュラムに関しては、連邦政府は「ナショナル・スタンダード」という緩やかなガイドラインを持っていますが、細かな教育内容に関しては学区に任されています。

そこでこうした「保守運動」としては各学区をターゲットとすることになりました。アメリカの場合は、学区ごとに教育委員が公選され、その教育委員がプロである教育長を専任して、日々の教育活動はその教育長に委任するというシステムです。
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生徒たちのリーダー格であるマギー・ラムソーさんという高校四年生は、「不正な秩序に挑戦することが正しいと教えるのは、何も無政府主義を推奨することにはならないのです。そうではなくて、政府というものが人民に奉仕するものであり、そのためには修正すべきところは修正すべきだという当たり前のことは、この国の制度設計にビルトインされているのです」と述べていました。

実はアメリカの場合は、このラムソーさんのセリフこそが「正統」であり、例えばアイビー・リーグ加盟校などの名門大学は、このような運動でリーダーシップを発揮して結果を出した彼等の活動については、合否判定の中で「高評価」を与えるに相違ありません。

そしていわゆる保守の運動は、このような「リベラルな思想をもったエスタブリッシュメント」に対する反抗として発生したという側面があるのも事実です。ですが、ダメなもの、間違ったものはやはりダメであり、そのように果敢に行動した高校生たちの存在は、社会に活力を与えることは間違いないでしょう。香港の17歳たちだけでなく、アメリカの17歳も元気だということです。