教育勅語評価発言 戦前に逆戻りしたいのか - 朝日新聞(2018年10月6日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-814647.html
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柴山昌彦文部科学相が2日の就任記者会見で教育勅語について問われ「現代風にアレンジした形で、今の道徳などに使えるという意味で普遍性を持っている部分がある」と評価する発言をした。
「同胞を大切にするとか国際的な協調を重んじるとか、基本的な記載内容について現代的にアレンジをして教えていこうと検討する動きがあると聞いている。そういったことは検討に値する」とも述べている。時代錯誤も甚だしい。
教育勅語は1890年に発布され、明治天皇の名で国民道徳や教育の根本理念を示した。親孝行や家族愛を説きながら「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ」と記し、万一危急の大事が起こったならば一身をささげて皇室国家のために尽くすことを求めている。
学校では「御真影」(天皇、皇后両陛下の写真)とともに保管され、神聖化された。昭和の軍国主義教育と密接に結び付いていた。
当然のことながら、現行憲法の基本原理である国民主権基本的人権の尊重、平和主義とは相いれない。1948年に衆院は排除決議、参院は失効確認決議を可決する。衆参両院は詔勅の謄本の回収を政府に求めた。教育勅語は、戦争という誤った方向に突き進んだ時代の「負の遺産」だ。
親孝行や家族愛を説くのなら、わざわざ教育勅語を持ち出すまでもなく、適切な教材はいくらでもある。戦前に逆戻りしたいのだろうか。
政府は昨年3月、「教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切」としながらも「憲法教育基本法に反しないような形で教材として用いることまでは否定されない」との答弁書閣議決定している。
政府方針を拡大解釈し、歴史の史料以外の教材として教育勅語を利用するケースが出てこないとも限らない。柴山氏の発言でそうした懸念が一層強まった。
多様性が尊重される昨今、一つの価値観を押し付ける教育の在り方は国際的な潮流にも逆行する。まして、憲法の理念に反する教育勅語を道徳などで教材化することは許されない。
柴山文科相を任命したのは安倍晋三首相だ。教育勅語を巡っては昨年3月、当時の稲田朋美防衛相も「全くの誤りというのは違うと思う。その精神は取り戻すべきだ」と述べ、野党から批判を浴びた。両氏とも首相に近い。首相自身と同じ考えだから起用したのではないか。
柴山氏は、公明党幹部から「教育勅語を是認するような発言はアウトだ」とくぎを刺され、「すいません」とこうべを垂れたという。謝る相手が違う。
5日になって「政府レベルで道徳なども含めて教育現場に活用することを推奨する考えはない」と釈明したが、不十分だ。発言を撤回した上で、混乱を招いたことを国民に謝罪すべきだ。