刑事司法改革 「宿題」は残ったままだ-東京新聞(2014年7月11日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014071102000168.html
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法制審議会の特別部会が答申案をまとめた。取り調べの録音・録画は一歩前進だが、司法取引や広範な通信傍受なども法制化される。冤罪(えんざい)防止という目的とは、かけ離れた決着と言わざるを得ない。

冤罪をなくすために刑事司法制度をどう改革したらいいか−。この問題意識から三年前に出発した特別部会である。厚生労働省事務次官村木厚子さんが、局長時代に巻き込まれた大阪地検の郵便不正事件がきっかけだった。

取り調べを録音・録画(可視化)することは、その有効な手段の一つである。自供しないと長期間にわたって身柄拘束する「人質司法」の解消も図る必要があったはずだ。

証拠も全面開示されれば、被告に有利な証拠を探し出す手段となる−。さまざまな改革案が当初は構想されていた。

結果はどうか。可視化は裁判員裁判の対象事件と検察の独自捜査事件に限定された。全事件のうち約3%にすぎない。確かに可視化の義務化は、これまでの制度に風穴をあける意義はあろう。

だが、部会の委員である映画監督の周防正行さんがテーマにした痴漢事件などでも冤罪は起きる。全事件を可視化の対象とできなかった悔いは大きい。

人質司法」のテーマも事実上、消滅したことには失望する。「現状に問題はない」という意見が部会を支配したのだろうか。認識のずれの深さは嘆かわしい。

証拠開示もそうだ。証拠のリストだけを開示する項目が盛り込まれたことは前進と評価できるものの、まるで抜け道が用意されているようだ。「捜査に支障が生じるおそれ」などの例外規定が認められているのだ。再審事件では、リスト開示すら排除された。

何よりも、冤罪防止とは関係がない司法取引や通信傍受の拡大などが法制化されることに懸念を覚える。司法取引は起訴しない見返りなどを与えて、他人の犯罪を供述させる手法である。容疑者は自分の罪を軽くしたい心理が働き、うそを言う可能性がある。冤罪を防ぐどころか、新たな冤罪を生んでしまう恐れがある。

要するに捜査当局の新たな“武器”を大幅に認める内容となった。本来、可視化も司法取引も通信傍受も、個別のメニューである。それらを同じ皿に載せて食べろという論法がまかり通った。村木さんは「たくさん宿題が残った」と語った。今後も「宿題」を解く努力を続けるべきである。