(司法取引導入)冤罪生む懸念拭えない - 沖縄タイムズ(2018年3月27日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/228663
https://megalodon.jp/2018-0327-0922-11/www.okinawatimes.co.jp/articles/-/228663

日本で初めて司法取引が6月1日から導入される。政府が改正刑事訴訟法の施行日を定めた政令閣議決定した。
司法取引とは、他人の犯罪を明らかにする見返りに容疑者や被告の刑事処分を軽くする制度だ。
具体的には、逮捕された容疑者や起訴された被告が警察官や検察官に対し、共犯者らに関する供述や証拠提出などで協力すれば、検察官が起訴を見送ったり、より軽い罪で起訴したりする内容である。
暴力団などの組織犯罪や経済犯罪の捜査では、末端を摘発しても上層の主犯格に至るまでには困難が伴う。司法取引はその武器となろう。
欧米では広く採用されており、トランプ米政権下で現在進行中のロシア疑惑でも司法取引はたびたび報道されていることから、耳にした人も多いに違いない。
だが司法取引には重大な落とし穴が潜んでいる。意図的な虚偽供述で、無実の第三者を巻き込み冤罪(えんざい)を生み出す危険性が拭えないからである。
冤罪の多くが検察官のストーリーに合わせた容疑者の供述が重要なポイントになっていることを考えれば、捜査当局は、慎重な運用をしなければならない。
司法取引で供述が得られたからといっても、捜査当局は供述内容の裏付けをこれまで以上に徹底する必要がある。
今回政令で司法取引の対象となる多くの経済事件が追加された。企業が萎縮するとの指摘もあり、追加の法律が妥当かどうか、検証しなければならない。

■    ■

司法取引に当たっては検察官と容疑者や被告が合意し、弁護人の同意を得る。この3者が署名した書面で合意内容を明らかにする。
虚偽の供述をした場合は5年以下の懲役に処せられる罰則が付いている。
政府はこれらを司法取引に応じる容疑者や被告の供述の信用性を担保するものと位置付けているが、ほんとうにそうだろうか。
いったんうその供述をしたら、罰則があるため逆に、自分の罪を免れたり、責任を転嫁したりするため、虚偽の供述を押し通す可能性が高まるのではないか。
弁護人も、担当する容疑者や被告の利益を守るのが主な目的であり、他人を巻き込む冤罪の歯止めになるとは限らないであろう。
裁判所は、司法取引による供述の信用性の有無の見極めが重要になる。

■    ■

刑訴法などの改正は、厚生労働省村木厚子元局長の文書偽造冤罪事件を契機に行われた。2016年5月に成立、6月に公布された。
通信傍受(盗聴)の対象とする犯罪を拡大し、通信事業者の立ち会いを不要とする改正通信傍受法がすでに施行されている。
録音・録画(可視化)の一部義務化は来年6月までに導入されることになっているが、裁判員裁判事件や検察の独自捜査事件などに限られ、全事件の3%程度といわれる。
可視化を全事件と任意捜査段階にまで広げないと、司法取引と通信傍受拡大とのバランスがとれない。