68歳の「過労死」 高齢社会を直視しよう - 東京新聞(2018年10月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018102202000132.html
https://megalodon.jp/2018-1022-1106-29/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018102202000132.html

六十八歳のシニア社員が勤務中に亡くなった。休憩も取れないほどの長時間労働だった。政府は高齢者の就労促進を掲げている。だが、人手不足を補う役割を押しつけては働き過ぎを防げない。
男性は、警備会社の社員として私立高校の警備を担当していた。今年二月、夜間勤務中に急性心筋梗塞を発症し二カ月後に亡くなった。遺族は長時間労働による過労が原因だとして労災申請をした。
驚いたのはその長時間労働の実態だ。代理人川人博弁護士によると、同僚が一人休職となり男性ともう一人の二人で交代勤務をしていた。帰宅せず三日間の連続勤務もあった。仮眠は規定より短くしか取れず休憩時間もわずかな時間しかなかったようだ。
男性は年金が月十四万円ほどで家賃も払う必要があった。家族もおり生活のために六十五歳以降も引き続き働く道を選んだ。
しかし、この働き方は高齢者に限らず過酷だ。男性は生前、人員を増やすよう会社に要望していたという。それだけに改善がされなかったことは悔やまれる。
総務省の八月の労働力調査では、働く六十五歳以上はパートなどを含め八百七十二万人で就業者の13%を占める。高齢者の四人に一人が働いており、社会を支える重要な働き手だ。
高齢者の職場は人手が不足している業種に多い。この男性のように生活のためにフルタイムで働く必要から労働条件に問題があっても我慢せざるを得ないケースもあるだろう。いきおい過重な労働を強いられかねない。
川人氏は「とりわけ六十代後半から七十代前半の過労問題の相談が増えている」と話す。高齢者は人手不足の穴埋め人材ではない。
発足した第四次安倍改造内閣は六十五歳以上への継続雇用年齢の引き上げなど高齢者の就労促進を掲げた。活躍の場を広げることは重要だが、やりがいを持って健康に働けることが前提になる。
体力が落ちる年代。持病を抱える人もいるはず。企業は短時間勤務や週二日勤務など働き方に配慮してほしい。政権も経済成長に前のめりになるあまり過労死を放置することは許されない。
もうひとつ気になることがある。男性は朝の時間帯に保護者からの電話応対もしていた。多い日は一時間で三十件もあったという。本来は教職員の業務だが、教員の多忙が背景にあるようだ。働き方は連鎖する。その見直しは社会全体で取り組むべきだ。

トランプ大統領、核廃棄条約の破棄表明 中ロに対抗 - 日本経済新聞(2018年10月21日)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36742660R21C18A0FF8000/
http://archive.today/2018.10.20-235044/https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36742660R21C18A0FF8000/

【ワシントン=中村亮】トランプ米大統領20日、米国が旧ソ連との間で結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄する意向を表明した。ロシアが条約に違反し、ミサイルの配備を進めていると批判した。条約の制限を受けずに戦力増強を進める中国に対抗する狙いもある。冷戦後の核軍縮の流れが大きく転換する可能性が出てきた。
トランプ氏は同日、遊説先のネバダ州で記者団にINF廃棄条約について「その合意を終わらせるつもりだ」と語った。「ロシアや中国が戦力を増強するのに米国だけ条約を順守することは受け入れられない」と指摘した。「我々は戦力を開発する必要がある」とも強調した。
同条約には1987年に当時のレーガン米大統領ソ連ゴルバチョフ書記長が調印した。射程500〜5500キロメートルの地上発射型の巡航ミサイルの開発や配備を禁じた。条約は冷戦下で過熱した核戦力の増強の流れを変えて軍縮に向かう転機となった。
ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は21日からモスクワを訪問し、ラブロフ外相やパトルシェフ安全保障会議書記と会談し、条約のあり方について協議する見通しだ。ロシアは条約を違反していないと主張してきた経緯があり、米国の破棄に反発するのは必至だ。
マティス米国防長官は10月上旬、ロシアが条約違反を続ける場合に備えて「防衛体制でとりうる選択肢を再検討している」と明らかにした。米軍は2017年3月にロシアが条約に違反して新型の地上発射型巡航ミサイル「SSC8」を実戦配備したと批判。SSC8は北大西洋条約機構NATO)加盟国の脅威になっている。
トランプ政権は核戦力で中国に対抗する必要があるとみている。今年2月にまとめた今後5〜10年間の指針となる「核体制の見直し」(NPR)では、米国が核兵器の削減に取り組んだが「中国を含む他国は逆の方向に進んだ」と指摘した。

米、トランスジェンダー排除へ 政権が検討と報道、保護に逆行 - 東京新聞(2018年10月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2018102201001344.html
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【ワシントン共同】米紙ニューヨーク・タイムズは21日、トランプ政権が性の定義を生まれつきの性別に限定することを検討していると報じた。心と体の性が異なるトランスジェンダーの存在を行政上認めなくする措置で、実行されれば性的少数者(LGBT)の権利保護を進める世界の潮流に逆行することになり、国内外で批判を招くのは必至だ。
同紙は「生まれつきとは異なる性を選んだ推定140万人が政府に存在を認められなくなる」と指摘した。
厚生省を中心に、性の定義を「男性か女性かのどちらかで変更はできず、生まれ持った生殖器により決定される」として政府内での統一を検討しているという。

(余録)ホームに立つと、耳慣れない外国語の放送が聞こえてくる… - 毎日新聞(2018年10月22日)

https://mainichi.jp/articles/20181022/ddm/001/070/162000c
http://archive.today/2018.10.22-020751/https://mainichi.jp/articles/20181022/ddm/001/070/162000c

ホームに立つと、耳慣れない外国語の放送が聞こえてくる。タイ語スウェーデン語、ロシア語……。もちろん中国語や韓国語もある。多国籍の街、東京・新宿のJR新大久保駅。流れる言語の数は20を超える。
放送は「階段や通路は右側を歩いてください」。駅で右側通行が守られないと事故が起きかねない。外国人が大幅に増えたことによる影響だ。かつてこの街はコリアン一色の印象だったが今は違う。日本で学ぶ各国の若者を迎える日本語学校が集中する。
その日本語学校について法務省は設置基準を厳しくした。就労目的の留学生を安易に呼び込まないようにするためだ。一方で、外国人の労働力に頼らないと日本社会は立ち行かないところまできている。
日本で働く外国人は増え続け、127万人を超えた。だが、日本語ができずに社会に溶け込めない人が多い。近隣トラブルも絶えない。生活に欠かせない日本語教育を支援する国の制度をどう充実させるかは大きな課題だ。
とりわけ子供への学習支援は大事である。熱心な自治体はあるものの、まだ不十分だ。共生社会をどう築いていくのか。観光でお金を落としてくれたり、日本人が嫌がる仕事をしてくれたり。そんなことばかり求めていては、本当の国際化とはいえまい。
時折、電車の中で日本語の学習ノートを広げ、黙々とペンを走らせる海外の若者を見かける。たいていはアジア系だ。一人の女性が「魚」の付く漢字をいくつも書いて覚えていた。心の中で応援した。

日中平和友好 40年 主体的外交を練る契機に - 朝日新聞(2018年10月22日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13734291.html
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さきの大戦と中国の革命を経て、日中両国が国交を正常化したのは1972年だった。両国間の恒久的な平和友好を明記した条約が結ばれたのは、それから6年後の78年である。
日本の中国侵略という歴史も背景に、両国は覇権主義に反対し、すべての紛争を平和的に解決していくと約束した。
あれから40年。中国は飛躍的な経済成長で日本を追い抜き、強大な国力を得た。その台頭は両国関係にとどまらず、国際情勢を大きく変容させている。
日本は、この隣国とどう付き合っていくべきなのか。

■隣り合う異質の国情

25日から安倍首相が訪中する。7年ぶりの日本首相の公式訪問だ。関係の改善を進めるとともに、今後の日本外交全体のあり方を考える契機としたい。
「日本と中国とは大みそかと元旦のような関係ではないか」
72年の正常化当時の外相だった大平正芳・元首相は、そう語っていたそうだ。
たった1日の違いだが、大みそかと正月では、人々の気持ちも街の景色もガラリと変わる。日中の関係もこれと似て、隣国ながら、大きな相違点が多々あると言いたかったのだろう。
確かに日本は近年、中国の異質さを如実に経験してきた。
尖閣問題などの二国間のあつれきだけではない。中国内での深刻な人権問題。さらには南シナ海問題のような、国際秩序を自らに都合よく変えようとする強引な振る舞いである。
そうした強権の発動を座視することはできない。中国がいかに拒もうとも、民主主義、表現の自由、法の支配といった戦後日本と世界を築いた理念を曲げることなく、主張し続けねばならない。違いを乗り越える知恵と努力が求められている。

■重層的な関係を築く

40年前、日本がはるかに大きかった経済規模は逆転し、今や中国が日本の2倍半になった。中国がさらに米国にも迫るなか、米中は新たな冷戦とも危惧される摩擦を生んでいる。
先月の国連総会でグテーレス事務総長は、新旧の大国が衝突を重ねた世界史の教訓を学ぶよう提言した。日本にとっても、米中対立の行方は重大な意味を持ち続ける。
中国がいま、対日接近に動いているのも対米摩擦の副産物だという側面は否めない。日本の隣国との関係に米国の動きが大きく影響する現実は、今後も変わらないだろう。
自由主義を共有する日米は今後も協調していくべきであり、日本が米国との絆を重んじるのは当然である。ただ、その米国がトランプ政権のように自国第一主義に走れば、もはや対米追従だけでは乗り切れない。
国際秩序を守るために日本が協働する仲間を重層的に考えるときだ。地球温暖化の防止や自由貿易の促進のためには欧州諸国やカナダ、豪州などとの連携が重みを持つ。重要なのは日本が主体的に外交を組み立てていく覚悟を持つことだ。
いまの中国との協働は慎重さを要する分野もあるが、互恵の可能性を広げる余地は広大だ。中国との関係を是々非々で深める道を探らねばならない。
日中ともグローバル化の果実を最も享受してきた国だ。まずは自由貿易体制の維持に向けて連携を強める。同時に、中国をより開かれた市場経済へ導く努力に踏み込むことが必要だ。
中国が主導する「一帯一路」構想については、アジアと世界経済に資する潜在力がある。懸念される中国の覇権の具としてではなく、世界の発展に役立つ公正なインフラ開発となるよう、日本が関わるべきだ。

■交流を支える政治を

日中関係を支えるのは、両国政府だけではなく、一人ひとりの国民の意識である。
最近の世論調査を見ると、中国人の対日感情は好転しているが、日本人の対中感情の改善は鈍い。一方で、相手国を「軍事的な脅威」とする見方は双方で増えている。
領土問題をはじめ、世論は小さな火種でも感情論に走りがちだ。どちらかの国の人々が留飲を下げれば、一方の国で強い反発が生まれる。繰り返されてきた「反日」や「嫌中」の連鎖を断ち切れないものか。
いまや中国からの来日は年間730万人、日本人の訪中は250万人。この交流の拡大を、好き嫌いを超えた理性的な関係づくりに役立てたい。政治の役割は、市民同士の関係に水を差すのではなく、養い育てることにある。
平和友好条約は、72年の共同声明などとともに両国関係の基礎とされる「四つの政治文書」の一つだ。来年には習近平(シーチンピン)国家主席の訪日も視野に入る。ここ数年の諍(いさか)いを繰り返さないためならば、第5の政治文書の作成も、検討されていいだろう。
批判すべきところは批判し合い、協調できるところは協調を強める。合理性に立った、新たな日中関係をめざしたい。

那覇市長に辺野古反対派 玉城知事が支援、現職再選 - 東京新聞(2018年10月22日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201810/CK2018102202000124.html
https://megalodon.jp/2018-1022-0937-31/www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201810/CK2018102202000124.html


任期満了に伴う那覇市長選は二十一日投開票され、無所属の現職城間幹子(しろまみきこ)氏(67)が、無所属新人の元沖縄県議翁長政俊(おながまさとし)氏(69)=自民、公明、維新、希望推薦=を破り、再選された。米軍普天間(ふてんま)飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)移設に伴う名護市辺野古(へのこ)への新基地建設に反対する玉城(たまき)デニー知事や野党が支援する城間氏が、安倍政権の推す翁長氏との「代理対決」を制した。玉城氏は、選挙期間中に国が県による辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回に対抗措置を取ったことに関し「非常に強い憤りが投票行動に表れた」と話した。投票率は48・19%。
那覇市長だった翁長雄志(おながたけし)前知事の後継として四年前に当選した城間氏は、選挙戦では市政の継続を主張した。玉城氏も告示日から応援に入り、県政との連携や辺野古反対をアピールした。子どもの医療費や幼児教育の無償化を掲げ、野党や無党派層からも幅広い支持を得た。
玉城氏は那覇市内の城間氏の事務所で記者団に「辺野古に新基地は造らせない、平和な沖縄をつくる、といったさまざまな思いがこの選挙結果に込められた」と強調した。城間氏は「翁長雄志氏の遺志を継いだ選挙戦が評価されたことは、玉城県政にとっても力強い後押しになるのではないか」と話した。


当 79677 城間 幹子

  42446 翁長 政俊

      (選管最終)

◆市民の意思政府への警告
沖縄県知事選(先月三十日投開票)に続き、県都那覇の市長選でも、辺野古の新基地建設に反対する政党や団体でつくる「オール沖縄」勢力の支援候補が圧勝したことで、辺野古沿岸部の埋め立て工事を進める政府への県民の抵抗意識は一層、明確になった。政府がこれ以上、工事の既成事実化を図るなら、沖縄との対立をあおるだけになる。
オール沖縄の支援候補は今年に入り、二月の名護、三月の石垣、四月の沖縄の各市長選で連敗していた。だが知事選を節目に流れが変わった。市長選は那覇に先立つ今月十四日の豊見城(とみぐすく)でも勝利。これで県内十一市のうち、南城を含む三市が玉城デニー知事を支える市長となり、県政運営の追い風になるのは確実だ。
一方、沖縄の時流に逆らうかのように、政府は那覇市長選の選挙期間中の十七日、県による埋め立て承認撤回に対し、行政不服審査法に基づく不服審査を請求し、撤回の効力停止を申し立てている。
安倍晋三首相は十二日の玉城氏との初会談で、沖縄との対話姿勢を示したばかりだ。今回の結果は、もはや対話が形だけでは済まされないという県民、市民から政府への強い警告に聞こえる。 (村上一樹)

(大弦小弦)候補者も、有権者も、選挙管理当局者も命懸け… - 沖縄タイムス(2018年10月22日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/333020
http://web.archive.org/save/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/333020

候補者も、有権者も、選挙管理当局者も命懸け。それでもアフガニスタンの人々は一票に民主主義への願いを託した。3年延期されてきた下院選が20日あった

▼反政府武装勢力タリバンが選挙への攻撃を宣言。自爆テロなどで投票日までに候補者10人、当日の投票所でも市民ら数十人が犠牲になった。警察の責任者が殺害され、投票ができなかった州もある

▼ここ沖縄で、同じように空白地帯ができるかもしれない。石垣市議会が、辺野古新基地建設の賛否を問う県民投票に反対する意見書を可決した。投票費用が予算化されなければ石垣市民は投票できなくなる

▼国防の問題は一自治体の住民投票になじまない、と意見書は指摘する。新基地は住民の命や人権を脅かし、自治体内に権限が及ばない聖域を増やすから、まさに自治の問題だと私は考える

▼このように意見はいろいろある。県民投票はそれを戦わせて結論を得る舞台になる。1996年の県民投票で自民党県連は棄権を呼び掛けたが、舞台まで壊しはしなかった。舞台に上がる機会を市民全員から奪うのは民主主義に対する暴力ではないか

石垣市議会のほか、投票事務への態度を保留している市が複数ある。市民全体に奉仕すべき政治家に、市民の意見を封殺する権利があるか。自分の足を撃つようなことはしないでほしい。(阿部岳)

(政界地獄耳)「憲法改正」首相のレームダック化 - 日刊スポーツ(2018年10月22日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201810220000219.html
http://archive.today/2018.10.22-011135/https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/201810220000219.html

★24日の国会開会前に与野党協調路線で進めてきた自民党憲法審査会のメンバーが一新され、新たに任命された自民党憲法改正推進本部長・下村博文は早速、公明党憲法調査会長・北側一雄に「憲法審査会を定期的に開けるよう、協力をいただきたい」と要請した。自民党内には首相・安倍晋三が強く憲法改正を望んでいることから「与野党の協調路線ではいつまでたっても議論ばかりで前に進まない」という強硬論がある。

★しかし、自民党が長年、野党と丁寧に議論を続けてきた憲法調査会の面々は一新され、憲法改正の意義や内容、本質などの知識の乏しい顔ぶれに代わったことは、憲法議論ではなく「いいからやれ」を強いてくるのではないかと野党や自民党内の穏健派は警戒する。「それでなくとも消費税議論も今後紛糾しそうで憲法論議が進むどころか国民の関心事ではなくなっていく。強引に進めるやり方は首相の私欲以外に理由が見当たらない。首相はかねがね『静かで落ち着いた環境での国民的議論が必要』としていたことからも反するのではないか」(自民党中堅議員)。

自民党内の声をまとめると「公明党参院選前に何を言っているのかという調子」「総裁選挙が終わって首相支持者の改憲論者への顔もあるだろうから今は党内も自由にしゃべらせているという感じ」「総裁派閥の細田派はポスト安倍とのにらみ合いに持ち込もうとしている。どの派閥も自分のところだけじゃ通らないのだから『わかってるよね』といった意味でゴリゴリ来ている」というような空気のようだが、ある幹部は「(自民党案の)国会提出までだ。発議まではないだろう」との見方を示した。どうやら自民党内の攻防が先行しているようだが一方で、首相のレームダック化が進んでいるように見える。流れは速い。(K)※敬称略

木村草太の憲法の新手(90)普天間巡る国と小金井市議会 対照的な手続きの公正性 - 沖縄タイムス(2018年10月21日)


https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/332808
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知事選後、辺野古問題を巡る動きが幾つかあった。
まず10月17日、沖縄県による辺野古埋立承認処分の撤回について、岩屋防衛大臣は、行政不服審査法に基づき、国土交通大臣に撤回の効力を停止する申し立てを行った。
しかし、行政不服審査法は、本来、行政庁の違法・不当な公権力の行使があった場合に「国民」に「簡易迅速かつ公正な手続き」を保障し、「国民の権利利益の救済を図る」ための制度だ(同1条)。国が行政不服審査を利用するのは、「国民の権利保障のため」という制度趣旨に反する、との批判がある。
さらに、防衛省国交省も、同じ内閣の下に束ねられる行政組織だ。防衛大臣の申し立てを国交大臣が審査しても、ただのお手盛り審査にすぎず、「公正」な手続きとは言えないのではないかとの疑念もある。
沖縄県側は、処分撤回について、必要なはずの設計書面が示されなかったこと、辺野古に基地が建設されても普天間基地が返還されない可能性があることなど、深刻な問題を指摘している。国は、行政不服審査という強硬手段ではなく、沖縄県と対話の機会を設け、これらの問題を解決し、理解を求めるところから始めるべきではないか。
次に、9月25日、東京都小金井市議会は辺野古基地建設に関する陳情書を採択した。陳情書は、(1)辺野古新基地建設を中止し、普天間基地運用を停止した上で(2)日本国内の全自治体を普天間代替施設の候補地として(3)米軍基地そのもの、および普天間代替施設の要否を議論し(4)米軍の普天間代替施設が必要との判断に至った場合には、憲法にのっとり公正で民主的な手続きを経て場所を決定すべきだ−としている。
本土の自治体の議会で、このような陳情が採択されたことには、重要な意義がある。ただし、幾つかの会派の対応は残念なものだった。
第一に、自民・公明両会派の議員は、辺野古基地建設は、国が進める施策だという理由で、反対ないし棄権した。しかし、「米軍基地設置は、辺野古が最適だ」と自信があるなら、むしろ、陳情書の求めるような適正手続きを踏んで計画の正統性を高めるべきではないか。国政与党の対応は、むしろ、「辺野古が最適」との結論への自信のなさの表れに見える。
第二に、共産党会派の議員たちは、陳情書には賛成したものの、それに基づき衆参両院・政府に送ることになった意見書の議決には反対した。このことについて、同党書記局長の小池晃衆院議員は、日米安保条約や代替施設の設置自体に反対する同党の立場からは、日本全国を候補地とする部分に賛成できないと説明している。
しかし、陳情書は、代替施設の要否そのものも国民全体で検討するとしているのであり、その場面で共産党の立場から問題提起をすることもできるだろう。議論自体を拒絶するかのような対応は残念だ。
一連の出来事は、国や本土の国民との対話の困難さを改めて示すものだ。とはいえ、行政不服審査の利用に批判の声が上がっていること、小金井市の陳情書が採択されたことは、一つの希望でもある。本来のあるべき姿を取り戻すべく、なすべきことを積み重ねていくしかない。(首都大学東京教授、憲法学者) =第1、第3日曜日に掲載します