核廃絶決議案 賛成23カ国減 禁止条約対応で日本に反発 - 毎日新聞(2017年10月28日)

https://mainichi.jp/articles/20171028/k00/00e/010/259000c
http://archive.is/2017.10.29-011732/https://mainichi.jp/articles/20171028/k00/00e/010/259000c


【ニューヨーク國枝すみれ】国連総会第1委員会(軍縮)は27日、日本政府が提案した核廃絶決議案を144カ国の賛成を得て採択した。昨年の賛成票167から支持を23カ国減らした。今年7月に採択された核兵器禁止条約をめぐって、条約を支持する非核保有国と、反対する核兵器保有国や核の傘に頼る同盟国との対立が強まったのが原因。棄権は27カ国で、うち禁止条約採択を主導したオーストリアなど14カ国が、昨年の賛成から棄権に転じた。
禁止条約を主導した国々との対立を受け、採決に加わった国の数自体も13カ国減った。賛成国には米国のほか、昨年棄権した英仏も加わった。反対国は昨年と同じ、中国▽ロシア▽北朝鮮▽シリアの4カ国。韓国やイラン、インドなどは昨年に続いて棄権した。
高見沢将林・軍縮大使は賛成144票の結果について「幅広い賛成を得られた」と評価。棄権票が増えたことに関しては「謙虚に受け止め、核軍縮に向け具体的措置をつめていくことが課題」と語った。
日本の決議案は「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意の下での共同行動決議案」。各国が連帯して核なき世界を目指すことを訴える内容で、1994年から毎年提案してきた。
日本政府は、核兵器禁止条約への言及を求める非核保有国の強い要望を受け、「核兵器なき世界の実現に向けたさまざまなアプローチに留意する」との表現を新たに盛り込む一方、核兵器禁止条約については明記しなかった。また、北朝鮮による核実験や大陸間弾道ミサイルICBM)発射に言及することで「安全保障上の懸念に向き合わずに核軍縮だけを進めるのは非現実的」と主張する核保有国や同盟国に配慮した。
さらに今年の決議は「核兵器のあらゆる使用」が壊滅的な人道上の結末をもたらすと明記していた昨年の文言から「あらゆる」が削除された。核実験全面禁止条約(CTBT)発効の障害となっている米国など8カ国の未批准国に批准を要請する文言も表現が弱められ、核保有国に核軍縮の責務を課す核拡散防止条約(NPT)第6条への言及も削除された。
ニュージーランドなど賛成から棄権に回った国々は「昨年より内容が後退した」と日本の決議案を批判した。
一方、核兵器禁止条約の採択を主導したオーストリアが提出し、全ての国にできるだけ早期に禁止条約を批准するよう呼びかける決議案も27日、非核保有国118カ国の賛成で採択された。核保有国や米国の核の傘に頼る日本など39カ国が反対、11カ国が棄権した。
決議案は今年7月の核兵器禁止条約の採択を歓迎し、条約は核軍縮への不可欠な貢献と再確認している。

河野外相が意義強調
河野太郎外相は28日、日本政府が提出した核兵器廃絶決議案が国連総会第1委員会で採択されたことを受けて「核兵器国や核兵器禁止条約に賛成した国を含む、幅広い国々の支持によって採択されたことを心強く思う」との談話を発表した。
決議案への賛成が昨年より減少したことを踏まえ「核兵器国と非核兵器国のみならず、非核兵器国の間でも安全保障環境に応じて立場の違いが顕在化している」と指摘。そのうえで「すべての国が核軍縮の取り組みに改めて関与できる共通の基盤の提供を追求した」と意義を強調した。
決議案で日本が交渉に参加しなかった核兵器禁止条約に触れなかったことへの言及はなかった。【加藤明子

■日本が提案した核兵器廃絶決議案への投票行動

核廃絶決議、問われる整合性 核禁条約に賛同しない日本 - 朝日新聞(2017年10月29日)

http://www.asahi.com/articles/ASKBX52GGKBXUHBI01C.html
http://archive.is/2017.10.28-233916/http://www.asahi.com/articles/ASKBX52GGKBXUHBI01C.html

27日の国連総会第1委員会。日本の決議案には多くの批判が出た。
「2017年は核軍縮の転換点。核禁条約ができたことは、無視できない画期的な出来事のはずだ。今年は賛成できない」
昨年は賛成したコスタリカの代表はこう述べ、棄権に回った。今年の決議案が、7月に国連で採択された核禁条約に触れていない点を問題視した。コスタリカは条約をまとめる交渉で議長国を務めた。
同じく昨年は賛成したニュージーランド。デル・ヒギー軍縮大使は「今年の決議案には過去の決議からの根源的な逸脱があり落胆している」と述べ、やはり棄権を宣言した。
今年の決議案が、「核兵器の使用による壊滅的な人道的結末についての深い懸念」とした点などを指している。昨年は「核兵器のあらゆる使用による壊滅的な人道的結末についての深い懸念」と、「あらゆる」という言葉が入っていた。
「あらゆる」という言葉がないと、核使用を完全に禁じることにはならず、核使用を容認するような解釈を生む――というのが専門家の共通見解とされる。
フランスの元外交官でシンクタンクジュネーブ安全保障政策研究所」のマルク・フィノー氏は「自衛のためなどの場合、合法的に核兵器を使用できうるという意味になる」と解説する。別の国際法専門家は「核攻撃に対して、核による『報復攻撃』の可能性を残しておくというのが日本の立ち位置ではないか」と指摘した。
また今年の決議案で批判が集まった中に、昨年の「核兵器の完全な廃絶を達成」という「明確な約束」を再確認する文言が、「達成」部分が削除され「核不拡散条約(NPT)の完全履行」に後退した点がある。NPTは核の使用を禁じていない。日本政府関係者によると、安保環境が厳しくなる中、核保有国の支持を得るため交渉を重ねた結果、この表現でしか折り合えなかったという。
唯一の戦争被爆国の日本は1994年以来、毎年、国連総会に核廃絶決議案を提出し、核軍縮を世界に呼びかけてきた。決議には加盟国に対する「勧告」程度の強さしかないが、それゆえ、核を巡る立場の違いを超えて、多くの国々の賛同を得ることができる。昨年は167カ国から賛成を取り付け、日本政府が世界の核軍縮分野の「橋渡し役」としての存在感を発揮することを可能にした。
今年の決議案に賛成した国からも、批判の声は上がっている。スイスとスウェーデンの代表は「再解釈や書き直しのいかなる試みにも断固として反対する」。同じく賛成したある国の関係者は取材に対し、「来年も同じ決議案なら、投票行動の変更を検討する」と述べた。(ニューヨーク=金成隆一、ジュネーブ=松尾一郎)

核廃絶決議 被爆者「まがいもの」反発の声が続々 長崎 - 毎日新聞(2017年10月28日)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171028-00000072-mai-soci
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国連総会第1委員会で日本政府が提案して採択された核廃絶決議案について、長崎市の田上(たうえ)富久市長は28日、決議内容が従来より後退したことを踏まえて、「まるで核保有国が出した決議かのような印象。被爆地として残念な思いを禁じ得ない」と批判するコメントを出した。
今年の決議案は、核実験全面禁止条約への批准を、米国など8カ国の未批准国に要請する表現が弱まるなどしたほか、核兵器禁止条約について言及しなかった。決議案への賛成票は昨年より23カ国減っており、田上市長は「被爆国としての毅然(きぜん)たる姿勢と具体的な取り組みを示すよう強く望む」と政府に注文を付けた。
長崎の被爆者からも反発の声が続々と上がった。長崎原爆被災者協議会の田中重光会長(77)は「核兵器禁止条約に触れなければ、中身が無い」と述べ、長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会の川野浩一議長(77)も「核廃絶を後退させる『まがいもの』決議案を提出したのは恥の上塗りだ」と語った。
被爆者の朝長万左男・日本赤十字長崎原爆病院名誉院長(74)は「国際社会の中で日本が核兵器廃絶の橋渡し役を担うつもりなら、禁止条約への一定の評価を示すことが先決だ」と指摘した。【浅野翔太郎、今野悠貴】

<風船爆弾の記憶>(5)体験者として 「語り部を続けたい」:群馬 - 東京新聞(2017年10月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/list/201710/CK2017102902000148.html
https://megalodon.jp/2017-1029-1029-18/www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/list/201710/CK2017102902000148.html

「あしたからは学校にこなくていい」。私立の女学校に通っていた小岩昌子さん(88)=東京都練馬区=は二年生の時、教師からそう言い渡された。都内の陸軍造兵廠(しょう)に動員された。
風船爆弾の気球用原紙を和紙で貼り合わせて作った。四人一組で長方形のブリキの机にはりつき、立ちっぱなしで作業した。机には番号が振られ、その日何枚作ったか分かるように棒グラフが作られていた。枚数が少ないと、集められて注意された。
学校と違って造兵廠は厳しかった。軍人が作業を見回り、軍隊式の号令で整列や行進をした。休憩中に読書していると、「そんな暇があるなら一枚でも作れ」と言われた。引率の担任は、控室に詰めているだけだった。
和紙を貼り付けるこんにゃく糊(のり)で服はすぐに傷んだ。母親から「なけなしの布で仕立てたのに」と小言を言われ「何をしているのか」ときつく問いただされたが、沈黙を通した。「家族にも絶対に話すな」と念を押されていたからだ。何を作っているのか知らなかった。疑問は持たず、聞きもしなかった。
戦後は小学校で約三十年間、教壇に立った。「あの戦争は何だったのか」。そんな疑問も持ちつつも、風船爆弾に関わったうしろめたさもあり、子どもの前で話すことは嫌だった。米国で風船爆弾で六人が亡くなっていたことを知った。「私は戦争の被害者とばかり思っていた。加害者だったかもしれないなんて」と震えたという。
退職後、風船爆弾について本格的に調べ始めた。登戸研究所(第九陸軍技術研究所)で行われた秘密戦の研究者、自動装置の部品開発に関わった技術者…。探しては、足を運んで耳を傾けた。
それから戦争体験を進んで話すようになった。小学校などに招かれて三十年以上、風船爆弾の「語り部」を続けている。分かりやすく説明するための手作りの教材も好評だ。子どもたちから寄せられた感想文はかなりの分量となり、大事に保管している。中学二年の生徒からは「私と同じ年ごろの子が加害者だったかもしれない。そう思わせてしまう戦争は絶対にいけない」と手紙が届いたこともあった。
「小岩さんはなぜ、嫌だと言えなかったの?」。小学生から、そう質問をされたこともある。
その答えは、小岩さんが風船爆弾の「語り部」を命ある限り続けようと決心した理由にも重なる。
「戦争だから言えなかった。何を作っているのか知らなかった。だから仕方ない、ですませてしまっていいのか。命を落として何も語れなかった人もいる。知っている人はその人たちの分まで語らなくて、だれが語るのかと」 =おわり
(この連載は大沢令が担当しました)

(筆洗)遠藤賢司さんが亡くなった - 東京新聞(2017年10月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017102902000127.html
https://megalodon.jp/2017-1029-1014-56/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017102902000127.html

夏の日。花柄のワンピースを着た女の子がお母さんと手をつないで歩いている。「僕」が追い抜こうとすると、女の子が大きな声で言った。「あのね私、お母さん大好きよ」−。「そしてお父さんもね」
お母さんはちょっと恥ずかしかったのか小さな声で、でも、つないだ手を大きく振って答える。「ありがとう」。見ていた「僕」は入道雲を見上げて、故郷のお母さんにつぶやく。「ありがとう」「そしてお父さんもね」
「地下鉄の駅へと急ぐ夏」。短い歌でその歌い手の代表曲ではないかもしれぬ。が、その人が紡ぎ続けてきたのは、そういう小さな日常と、その裏側にある人の心や「物語」であろう。遠藤賢司さんが亡くなった。七十歳。<頑張れよなんて言うんじゃないよ>(「不滅の男」)。そう叫んだ人のがんによる死が寂しい。
心の中の抑えきれぬ感情が歌とともに、ひょっとしたら歌さえ飛び越え、体の外へとあふれでてしまう。そういう歌い手だった。
人の悲しみ、やるせなさを深く理解し増幅させる装置が心の中にあり、それを声とギターでしぼりだす。声の震え、かすれる叫び。ぶっきらぼうでもそれが誰もが抱える痛みをなで、時にひっぱたいた。今の時代にこそ聴きたい声であった。
<そんな夜に負けるな友よ夢よ叫べ>(「夢よ叫べ」)。さらば、エンケン。でも、<どうしたんだよ、あの夢は>

週のはじめに考える 言うべきを言うべし - 東京新聞(2017年10月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017102902000155.html
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次の日曜日、トランプ米大統領が初来日します。今風に言えば「突っ込みどころ満載」の相手ですが、わが宰相、どこまで率直にもの申せるでしょうか。
やはり、まずは北朝鮮問題なのでしょう。なにせ、勇ましいのがお好きな方。間違っても暴発はしないようにと、その点、きつく安倍首相から釘(くぎ)を刺す必要があるのは言うまでもありません。
二国間の課題もたくさんありますが、最近の事案に即して言えば、沖縄での米軍ヘリ事故であらためて浮き彫りになった日米地位協定の問題。あまりに米側の都合に偏っており、見直しの話をぜひ持ち出してほしいものです。

◆コメントする立場にない
ほかにも、首相に直言してほしいことは多々ありますが、実は、少し心配もしています。
今年一月、トランプ氏が、難民や移民の入国を停止する大統領令に署名した時です。世界中から批判の声が上がりました。
メイ英首相は「こうした手法には同意できない」と批判的コメントを発表、メルケル独首相に至っては、電話で直接、大統領に「テロとの戦いイスラム教徒ら難民の受け入れを禁止する言い訳にならない」と意見したといいます。
で、安倍首相−。参院予算委員会でこう答えています。「米政府
の立場を示したもので、この場でコメントする立場にはない」。同じ同盟国の首脳なのに、ずいぶんな遠慮ぶりです。
例えば、トランプ氏は今月半ばの演説で、「イラン核合意」の破棄を警告、イランが合意を順守していないとして制裁再発動の是非を議会判断に委ねました。六月には、地球温暖化防止の国際ルール「パリ協定」からの離脱も表明しています。自国にトランプ氏を迎える今回こそ、こうした世界にかかわる問題でも、英独首脳並みに「言うべきは言う」の姿勢を示す好機じゃないでしょうか。

◆イラン核合意とパリ協定
イラン核合意は、オバマ前大統領時代の二〇一五年、イランと米欧など六カ国が苦心惨憺(さんたん)して実現にこぎつけました。これにより、それまでの米欧による対イラン制裁は解除、イランは石油輸出などが可能になるかわり、核開発の大幅な制限を受け入れたのです。
破棄を警告した演説で、トランプ氏は「イランは合意に基づく査察を拒否している」と批判しましたが、国際原子力機関IAEA)の天野之弥(ゆきや)事務局長はすかさず「イランは合意事項を履行している」との声明を出しています。どちらをフェイク(偽)と見るべきかは明らかでしょう。
もし、合意が崩れれば、イランは核開発を加速、中東の不安定化要因にもなります。合意破棄の方針には、ティラーソン国務長官らも強く反対したといいます。やはり「重大な過ち」(マクロン仏大統領)であり、「危険な愚行」(米紙ワシントン・ポスト)と言うほかありません。
安倍首相は、この機に、トランプ氏をしっかり諫(いさ)めるべきです。日本は六カ国に入っていませんが、だからといって、また「コメントする立場にない」では主要国のリーダーとしていかにも情けない。逆に、合意の外側にいるからこそ、米国対イラン+五カ国の仲立ちもできるはずです。
考えようによっては、もっと「危険な愚行」かもしれないのが、「パリ協定」離脱表明です。世界第二位の二酸化炭素(CO2)排出国なのですから影響の大きくないわけがありません。
石炭などのエネルギー産業にいい顔をしたい一心のようですが、当然、内外から非難囂々(ごうごう)。急速な電気自動車(EV)シフトなど、世界は既にパリ協定を基準に動きだしています。米メディアの世論調査で、ほぼ六割が反対したのも、むべなるかな。選考会で栄冠に輝いたミス・アメリカまでが舞台上で「悪い決定だ」と言及したそうです。
パリ協定の規定で、離脱には時間がかかり、実際には次の米大統領選前には困難のようですが、米国の温暖化対策の後退が決定的になってきているのは確かです。

◆這っても黒豆
もはや、疑いようがない研究成果や事象はいくらでもあるのに、トランプ氏はなお、温暖化は「でっちあげだ」と主張しています。
民主党のゴア元副大統領のイメージにつながる<不都合な真実>では、聞く耳持たぬでしょうから、首相はトランプ氏に一つ、わが国の古諺(こげん)を教えてあげてはどうでしょう。

<這(は)っても黒豆>。黒い点を見て、「あれは虫だ」「いや黒豆だ」と言い合っているうち、ついに点が動きだした。それでもなお「いや黒豆だ」と言い張る−。 
とにかく、トランプ氏を“改心”させられたら、きっと世界が拍手喝采ですよ、安倍さん。

第71回読書週間 本との出合いを広げたい - 毎日新聞(2017年10月29日)

https://mainichi.jp/articles/20171029/ddm/005/070/002000c
http://archive.is/2017.10.29-012505/https://mainichi.jp/articles/20171029/ddm/005/070/002000c

秋の深まりとともに、第71回読書週間が始まった(11月9日まで)。ことしの標語は「本に恋する季節です!」。読書離れが続く中、本との出合いを広げる手立てを考えたい。
数ある国内の文学賞はどれぐらい読者を増やしているのだろう。
毎日新聞が16歳以上を対象に実施したことしの読書世論調査で、受賞を参考にして本を買ったことがあると答えた人が25%にのぼった。
2015年の芥川賞受賞作、又吉直樹さんの「火花」は、ミリオンセラーになった。恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」は、ことしの直木賞本屋大賞をダブル受賞して注目された。
今月初旬には、長崎県出身の日系英国人作家カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞受賞が決定し、その日本的感性が話題を集めている。
イシグロ作品の邦訳版を出版する早川書房は、8作合わせ105万5000部を増刷した。同社は「受賞により読者層が広がった」と話す。
社会現象にならなくても、文学賞は本と出合う一つのきっかけになるだろう。それを糸口に別のジャンルの本にも取り組んでみたい。
子どもにも本離れは進んでいる。スマートフォンの普及に加え、街の書店が減った影響は見逃せない。
国学図書館協議会(全国SLA)と毎日新聞が小中高校の児童、生徒を対象に行ったことしの学校読書調査によると、本屋に行くと答えた割合が、12年の調査に比べ小中高のいずれも11〜8ポイント減っていた。
気がかりなのは、図書館の利用も小中高と進むにつれ減る傾向があることだ。学校図書館に行くと答えた割合は、小学校の59%に対し、高校生は13%。こちらも、12年調査より小中高のすべてで減少した。
学校教育では、討論や調べ学習を通じて主体的に学ぶ方向が示されている。学校図書館を「学びの場」として活用することも期待されているが、専門家は自然科学や社会科学などの蔵書が少ないと指摘する。
蔵書を見直し、学校図書館を充実させるには、先生の努力だけでなく自治体の財政支援が必要だ。子どもの頃に本の楽しさを知ると、成長してからも読書は身近になる。
本の中には著者のメッセージが詰まっている。人生を豊かにしてくれる本の魅力を若い層に伝えたい。

蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

指導死 教室を地獄にしない - 朝日新聞(2017年10月29日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13203749.html
http://archive.is/2017.10.29-012604/http://www.asahi.com/articles/DA3S13203749.html

子どもたちの可能性を伸ばすべき学校が、逆に未来を奪う。そんな過ちを、これ以上くり返してはならない。
教師のいきすぎた指導が生徒を死に追いやる。遺族たちはそれを「指導死」と呼ぶ。
福井県の中学校で今年3月、2年生の男子生徒が自死した。宿題の提出や生徒会活動の準備の遅れを、何度も強く叱られた末のことだった。
有識者による調査報告書を読むと、学校側の対応には明らかに大きな問題があった。
周囲が身震いするほど大声でどなる。副会長としてがんばっていた生徒会活動を「辞めてもいいよ」と突き放す。担任と副担任の双方が叱責(しっせき)一辺倒で、励まし役がいなかった。
生徒は逃げ場を失った。どれだけ自尊心を踏みにじられ、無力感にさいなまれただろう。
管理職や同僚の教員は、うすうす問題に気づきながら、自ら進んで解決に動かなかった。肝心な情報の共有も欠いていた。追いつめられた生徒が過呼吸状態になっても、「早退したい」と保健室を訪ねても、校長らに報告は届かなかった。
生徒が身を置いていたのは、教室という名の地獄だったというほかない。
だがこうしたゆがみは、この学校特有の問題ではない。「指導死」親の会などによると、この約30年間で、報道で確認できるだけで未遂9件を含めて約70件の指導死があり、いくつかの共通点があるという。
本人に事実を確かめたり、言い分を聞いたりする手続きを踏まない。長い時間拘束する。複数で取り囲んで問い詰める。冤罪(えんざい)を生む取調室さながらだ。
大半は、身体ではなく言葉による心への暴力だ。それは、教師ならだれでも加害者になりうることを物語る。
文部科学省や各教育委員会は教員研修などを通じて、他の学校や地域にも事例を周知し、教訓の共有を図るべきだ。
その際、遺族の理解を得る必要があるのは言うまでもない。調査報告書には、通常、被害生徒の名誉やプライバシーにかかわる要素が含まれる。遺族の声にしっかり耳を傾け、信頼関係を築くことが不可欠だ。
文科省は、いじめを始めとする様々な問題に対応するため、スクールロイヤー(学校弁護士)の導入を検討している。
求められるのは、学校の防波堤になることではない。家庭・地域と学校現場とを結ぶ架け橋としての役割だ。事実に迫り、それに基づいて、最良の解決策を探ることに徹してほしい。

(いじめ把握大幅増)深刻化防止につなげよ - 沖縄タイムズ(2017年10月29日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/162961
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全国の学校が2016年度に把握したいじめが32万件を超えた。いじめを幅広く捉えるよう国が促した結果だが、それにしても膨大な数である。掘り起こされた問題の「芽」を、「重大事態」を防ぐ対策へとつなげてもらいたい。
文部科学省が公表した問題行動・不登校調査によると、全国の小中高校と特別支援学校で認知されたいじめは32万3808件。前年度から約10万件増え過去最多を更新した。中でも小学校が23万7921件と多く、増加が顕著だった。
県内も同様の傾向である。小中高校などでのいじめ認知件数は1万2482件で、前年度から1万件以上の大幅増だ。
いじめの存在は、学校や教員の評価を下げるとの意識から、その発見に消極的な時期が長らくあった。
大津市の中2男子がいじめを苦に自殺したのをきっかけに、2013年に成立したいじめ防止対策推進法は、いじめを「一定の人間関係にある児童生徒による行為で、相手が心身の苦痛を感じている状態」と広く定義する。
法の考え方の浸透に加え、今回の調査ではささいなけんかやふざけ合いも一方的であればいじめに含むとしたことから、認知件数が大幅に増えたとみられる。
埋もれていたいじめの掘り起こしは、肯定的に捉えるべきだろう。ただこれだけ膨大な数のいじめが発見されているのだから、教員の負担は増えている。
件数把握を優先するあまり子どもと触れ合う時間が減っては本末転倒だ。

■    ■

いじめ調査では以前から都道府県による認知件数のばらつきが指摘されている。
千人当たりの件数は、最多の京都が96・8件、最少の香川が5・0件で19倍以上の差があった。沖縄は61・1件と前年度の11・5件から大きく増えた。
子どもたちの置かれた環境にそれほど差があるとは思えない。件数の多い自治体の方が丁寧に調査し、対応しているケースもあり、地域格差は見逃されたいじめがあるというシグナルではないか。
いじめの内容では「冷やかしや悪口」が最多。会員制交流サイト(SNS)など「パソコンや携帯電話での中傷、嫌がらせ」は、高校に限れば2番目に多かった。
大人の目が届きにくい「ネットいじめ」が広がりつつある現状を考えると、見逃されているいじめはまだある。

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調査では、子どもが心身に大きな被害を受けるなど、いじめ防止対策推進法で規定されている「重大事態」が400件に上った。
いじめを掘り起こす動きと、深刻化を防ぐ取り組みは必ずしも連動していない。
どうすれば解決に導けるのか。
参考にしたいのは、クラスを持たずにいじめ対策に専念する教員を置く大津市の取り組みだ。
教員が一人で問題を抱え込まず、スクールカウンセラーなど専門家と協力して学校全体で対応することも重要である。