週のはじめに考える 言うべきを言うべし - 東京新聞(2017年10月29日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017102902000155.html
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次の日曜日、トランプ米大統領が初来日します。今風に言えば「突っ込みどころ満載」の相手ですが、わが宰相、どこまで率直にもの申せるでしょうか。
やはり、まずは北朝鮮問題なのでしょう。なにせ、勇ましいのがお好きな方。間違っても暴発はしないようにと、その点、きつく安倍首相から釘(くぎ)を刺す必要があるのは言うまでもありません。
二国間の課題もたくさんありますが、最近の事案に即して言えば、沖縄での米軍ヘリ事故であらためて浮き彫りになった日米地位協定の問題。あまりに米側の都合に偏っており、見直しの話をぜひ持ち出してほしいものです。

◆コメントする立場にない
ほかにも、首相に直言してほしいことは多々ありますが、実は、少し心配もしています。
今年一月、トランプ氏が、難民や移民の入国を停止する大統領令に署名した時です。世界中から批判の声が上がりました。
メイ英首相は「こうした手法には同意できない」と批判的コメントを発表、メルケル独首相に至っては、電話で直接、大統領に「テロとの戦いイスラム教徒ら難民の受け入れを禁止する言い訳にならない」と意見したといいます。
で、安倍首相−。参院予算委員会でこう答えています。「米政府
の立場を示したもので、この場でコメントする立場にはない」。同じ同盟国の首脳なのに、ずいぶんな遠慮ぶりです。
例えば、トランプ氏は今月半ばの演説で、「イラン核合意」の破棄を警告、イランが合意を順守していないとして制裁再発動の是非を議会判断に委ねました。六月には、地球温暖化防止の国際ルール「パリ協定」からの離脱も表明しています。自国にトランプ氏を迎える今回こそ、こうした世界にかかわる問題でも、英独首脳並みに「言うべきは言う」の姿勢を示す好機じゃないでしょうか。

◆イラン核合意とパリ協定
イラン核合意は、オバマ前大統領時代の二〇一五年、イランと米欧など六カ国が苦心惨憺(さんたん)して実現にこぎつけました。これにより、それまでの米欧による対イラン制裁は解除、イランは石油輸出などが可能になるかわり、核開発の大幅な制限を受け入れたのです。
破棄を警告した演説で、トランプ氏は「イランは合意に基づく査察を拒否している」と批判しましたが、国際原子力機関IAEA)の天野之弥(ゆきや)事務局長はすかさず「イランは合意事項を履行している」との声明を出しています。どちらをフェイク(偽)と見るべきかは明らかでしょう。
もし、合意が崩れれば、イランは核開発を加速、中東の不安定化要因にもなります。合意破棄の方針には、ティラーソン国務長官らも強く反対したといいます。やはり「重大な過ち」(マクロン仏大統領)であり、「危険な愚行」(米紙ワシントン・ポスト)と言うほかありません。
安倍首相は、この機に、トランプ氏をしっかり諫(いさ)めるべきです。日本は六カ国に入っていませんが、だからといって、また「コメントする立場にない」では主要国のリーダーとしていかにも情けない。逆に、合意の外側にいるからこそ、米国対イラン+五カ国の仲立ちもできるはずです。
考えようによっては、もっと「危険な愚行」かもしれないのが、「パリ協定」離脱表明です。世界第二位の二酸化炭素(CO2)排出国なのですから影響の大きくないわけがありません。
石炭などのエネルギー産業にいい顔をしたい一心のようですが、当然、内外から非難囂々(ごうごう)。急速な電気自動車(EV)シフトなど、世界は既にパリ協定を基準に動きだしています。米メディアの世論調査で、ほぼ六割が反対したのも、むべなるかな。選考会で栄冠に輝いたミス・アメリカまでが舞台上で「悪い決定だ」と言及したそうです。
パリ協定の規定で、離脱には時間がかかり、実際には次の米大統領選前には困難のようですが、米国の温暖化対策の後退が決定的になってきているのは確かです。

◆這っても黒豆
もはや、疑いようがない研究成果や事象はいくらでもあるのに、トランプ氏はなお、温暖化は「でっちあげだ」と主張しています。
民主党のゴア元副大統領のイメージにつながる<不都合な真実>では、聞く耳持たぬでしょうから、首相はトランプ氏に一つ、わが国の古諺(こげん)を教えてあげてはどうでしょう。

<這(は)っても黒豆>。黒い点を見て、「あれは虫だ」「いや黒豆だ」と言い合っているうち、ついに点が動きだした。それでもなお「いや黒豆だ」と言い張る−。 
とにかく、トランプ氏を“改心”させられたら、きっと世界が拍手喝采ですよ、安倍さん。