通常国会開幕 「説明放棄」は許されぬ - 朝日新聞(2020年1月21日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14334326.html
https://megalodon.jp/2020-0121-0602-28/https://www.asahi.com:443/articles/DA3S14334326.html

長期政権のゆがみを正し、政治や行政への信頼を回復するとともに、政策論議を深める。立法府がその本分を果たせるか、まさに正念場である。
150日間にわたる通常国会が始まった。しかし、安倍首相のきのうの施政方針演説からは、そんな危機感はみじんも感じられなかった。
東京五輪パラリンピックの話題を随所に織り込み、「新しい時代」へ向けた「夢」や「希望」を語る一方で、「桜を見る会」やカジノ汚職、辞任閣僚の公職選挙法違反疑惑など、政権のうみと言うべき昨年来の問題には一切触れなかった。
桜を見る会をめぐっては、首相による私物化への批判にとどまらず、招待者名簿の扱いが公文書管理法に違反していたことを政府自身が認めた。「国民共有の知的資源」とされる公文書のずさんな管理は、民主主義の土台を揺るがす。真摯(しんし)な反省や再発防止への決意すら語ろうとしないのはどうしたことか。
カジノを含む統合型リゾート(IR)への参入疑惑は、内閣府副大臣の秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕されたほか、中国企業側が他の衆院議員5人にも現金を配ったと供述するなど、広がりを見せている。
首相は演説で、問題などないかのように「厳正かつ公平・公正な審査を行いながら、複合観光施設の整備に取り組む」とさらりと述べた。政権が成長戦略の柱に掲げるIRの正当性が根底から問われているというのに、これで国民が納得すると思っているのだろうか。
説明責任をないがしろにしているのは、首相だけではない。
昨秋、秘書が有権者に香典を渡していた菅原一秀経済産業相と、参院議員の妻に公選法違反疑惑が持ち上がった河井克行前法相が、ともに辞任に追い込まれた。両氏と河井氏の妻の案里議員はその後、国会を欠席したまま雲隠れを続けていた。
先週になって、公選法違反容疑で関係先の家宅捜索を受けた河井夫妻が、菅原氏も国会初日のきのう、ようやく記者団の取材に応じたが、いずれも捜査への支障を理由に事実関係に関する説明を拒んだ。これまで機会はいくらでもあったのに、捜査は口実としか受け取れない。
昨年の通常国会では、参院選への悪影響を懸念した政権の論戦回避が極まり、首相が出席した予算委員会の開会時間は第2次政権下で最短となった。秋の臨時国会も、桜を見る会の追及を振り切るため、政権は幕引きを急いだ。
あすの衆院の代表質問から国会の論戦が始まる。政権の「説明放棄」を許さぬ、野党の力量が試される。

 

首相の施政方針演説 まず不誠実な姿勢改めよ - 琉球新報(2020年1月21日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1060397.html
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安倍晋三首相は20日召集された通常国会で施政方針演説を行った。沖縄に関し「首里城の一日も早い復元に向け全力を尽くす」と述べた。さらに那覇空港第2滑走路の供用開始を挙げ「アジアのゲートウェイとして沖縄の振興に取り組む」と意欲を見せた。
沖縄の基地問題に関しては「抑止力を維持しながら基地負担軽減に一つ一つ結果を出す」と述べただけだった。昨年と同様、「県民に寄り添う」という言葉はなく、今回は「辺野古移設」や「普天間飛行場の一日も早い全面返還」という言葉も消えた。
辺野古新基地建設のための埋め立てに投票者の7割超が反対の意志を示した昨年2月の県民投票後、初めての施政方針演説だ。日本が民主主義の国なら沖縄の民意に従って工事を中止すべきだが、安倍首相は強硬な姿勢を変えようとしない。
演説は、経済振興を前面に据えた。新基地建設の強行に対する県民の反発を抑え、懐柔したいとの思惑が行間ににじむ。「県民の願い」から懸け離れた不誠実な政治姿勢と言える。
辺野古の埋め立て海域には軟弱地盤が広がる。政府は事業期間の想定について当初計画の約2倍の12年、総工費は3倍近い9300億円と大幅に修正した。
政府にとって都合の悪いことには口をつぐみ、県の反対意見に耳を傾けない態度は不誠実としか言いようがない。
自身に不都合なことには触れず、反省すべき問題について解決法を示さないのは沖縄の問題だけではない。
桜を見る会」を巡っては、招待者の実態や税金の使い方など、疑惑が山積している。それらへの説明責任を果たしていないにもかかわらず、演説で触れることはなかった。
共同通信が今月実施した世論調査では「桜を見る会」の疑惑に関し首相は十分説明していると思わないとの回答が86・4%に達した。
国民の声を真摯(しんし)に受け止めず、説明を避けようとする態度は政治不信を助長する。
演説では、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業を巡る汚職事件にも触れなかった。2017年8月から18年10月までIR担当の内閣府副大臣を務めた秋元司衆院議員(自民党を離党)が収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕されたにもかかわらずだ。この問題に政府としてどう臨むかにも言及しなかった。
一方で首相は全世代型社会保障制度の実現に向けた改革を「年内に実行する」と表明した。しかし「年金以外に老後資金2千万円が必要」とする報告書で広がった不安に応える具体的展望はいまだ示されていない。
演説からは、国民が抱いている不安や疑念、疑惑を解消しようという姿勢が見られない。不誠実な態度を改めなければ国民の信頼は醸成されない。掲げた政策の数々は美辞麗句に映るだけだ。

 

[施政方針と新基地] もはや破綻は明らかだ - 沖縄タイムス(2020年1月21日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/524407
http://web.archive.org/web/20200121002512/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/524407

通常国会が20日召集され、安倍晋三首相が施政方針演説をした。
安倍首相は「2020年代前半の海兵隊のグアム移転に向け、施設整備などの取り組みを進める。抑止力を維持しながら、沖縄の基地負担軽減に、一つ一つ結果を出していく」と述べた。
12年12月の第2次安倍政権発足後、通常国会の施政方針演説は8度目になるが、普天間飛行場の危険性、辺野古移設のいずれにも、触れないのは初めてである。
昨年1月の施政方針演説は「辺野古移設を進め、世界で最も危険と言われる普天間飛行場の一日も早い全面返還を実現していく」としていた。
なぜ、「普天間」「辺野古」が消えたのだろうか。
政府は昨年12月25日、新基地の完成までの工期を当初の8年から約12年へ大幅に延ばす計画見直し案を発表した。
大浦湾側に広がる「マヨネーズ並み」といわれる軟弱地盤が水面下90メートル地点にもあり、改良工事は世界的にも例がない難工事になることが予想されている。
政府は本年度内にも設計変更を県に申請する方針だが、玉城デニー知事は認めない構えだ。政府の工期は玉城知事の承認が起点であり、政府の計画通りにはいかない。仮に進んだとしても普天間返還は日米合意の「22年度またはその後」から30年代半ば以降にずれ込む公算だ。
新基地建設で普天間の危険性除去という政府の論理が破綻しているのは明らかだ。普天間返還の後れに言及しないのは不誠実極まりなく、強行工事との整合性も取れない。

■    ■

施政方針演説では、これまで取り上げたことがなかった海兵隊の米領グアムへの移転を強調している。
海兵隊の移転は民主党政権時代の12年に日米両政府が修正合意した米軍再編計画で沖縄に駐留する海兵隊約9千人をグアムやハワイなどへ移転させることが盛り込まれた。グアム移転を普天間移設とは切り離し、20年代前半に始めることを確認している。
主力の第4海兵連隊を含む実戦部隊が移転し、沖縄に残るのは2千人規模の第31海兵遠征部隊(MEU)だけになる。同部隊を運ぶ強襲揚陸艦長崎県佐世保に配備され、アジア太平洋地域で各国と共同訓練などを実施。1年の大半は沖縄にいないのが実態だ。海兵隊が沖縄に駐留する必要はないのである。
海兵隊の主力部隊がグアムなどに移転するのに、海兵隊の新基地を造るのは常軌を逸しているというほかない。

■    ■

総工費も当初の3500億円以上から2・7倍の約9300億円に膨らむ。工期と総工費がそれだけにとどまる保証は何もない。国民の税金である。こんな野放図な公共工事は直ちにやめるべきだ。
安倍首相は14年に約束した普天間の5年以内に運用停止することを守らず、その後も普天間の危険性除去に向けた対策をとっていない。不作為としかいいようがない。
政府が辺野古にこだわればこだわるほど、普天間の危険性が固定化される。国会で徹底した議論を求めたい。

 

伊方差し止め 過小評価は許されない - 東京新聞(2020年1月21日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020012102000163.html
https://megalodon.jp/2020-0121-0817-01/https://www.tokyo-np.co.jp:443/article/column/editorial/CK2020012102000163.html

四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを認めた広島高裁の決定は、原子力規制委員会の審査姿勢に疑問を投げかけた。本当に、住民の安全最優先の審査をしているか。これを機に自問を求めたい。
争点は活断層と火山噴火。キーワードは「過小評価」だ。
原発の沖合六百メートルを走る佐田岬半島沿岸の中央構造線(地質境界)が、大地震を引き起こす恐れのある活断層か、そうではないか。
今回の即時抗告審の一審に当たる山口地裁岩国支部は「海上音波探査を行い、活断層がないことを確認済み」とする四国電力側の主張をいれて、運転差し止めの申し立てを退けた。
しかし、広島高裁は「現在までのところ(十分な)探査がなされていないために活断層と認定されていない」という国の地震調査研究推進本部の長期評価をもとに、「中央構造線自体が活断層である可能性は否定できない」とした。
阿蘇山の巨大噴火による影響に関しても、評価は「過小」と言い切った。
にもかかわらず、「問題なし」とした原子力規制委員会の判定を、高裁は「その過程に過誤ないし欠落があったと言わざるを得ない」と厳しく批判した。
電力事業者側の調査データに多くを依存する規制委の審査の在り方に、司法が疑問を投げかけたとも言えるだろう。
決定が出た十七日は、阪神大震災からちょうど二十五年に当たる日だった。当時は「関西で大地震は起きない」と言われていたのに、起きた。大地震のたびに新たな活断層が“発見”されている。
一昨年九月の北海道地震のように、近くを走る断層帯との関連性が定かでないような地震もある。
日本は地震列島。いつ、どこでどんな地震が起きてもおかしくない。こと自然災害に関しては、過大評価とみられるくらいでちょうどいい。過小評価に陥ることを懸念する司法からの警告を規制委も重く受け止めるべきではないか。
四国電力が不服を申し立てれば、同じ高裁の別の裁判官に判断を委ねることになる。
伊方原発再稼働の是非に関しては、これまでも判断が分かれており、そのこと自体はやむを得ないだろう。
だが、地震や噴火によるリスクが疑われる限り、司法も「安全」を最優先に判断を下すべきではないか。「疑わしきは住民の利益」であるべきだ。

 

<金口木舌>手を挙げる勇気 - 琉球新報(2020年1月21日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1060398.html
https://megalodon.jp/2020-0121-0923-24/https://ryukyushimpo.jp:443/column/entry-1060398.html

静けさに包まれた会場。試験中、手を挙げて出題ミスを指摘する緊張感はどれほどだったろう。19日に終わった最後のセンター試験。18日の世界史Bで回答が選べない問題が出された

▼試験中、不備に気づいた受験生の一人が指摘した。全員に得点が与えられた。指摘した受験生はもちろん、「問題に関する質問は受け付けない」と一蹴せずに対応した試験官にも拍手を送りたい
▼誤りを指摘するには、知識と、それに裏打ちされた自信、そして勇気が必要だ。昨年末、琉球新報ホールで講演した中米コスタリカのロベルト・サモラ弁護士の話を思い出した
コスタリカは日本と同様、非武装平和憲法を持つ。サモラ氏は学生時代から憲法を守るために訴訟を提起し続けてきた。2003年には、当時、イラク戦争の有志連合にコスタリカが名前を連ねた際、一市民として大統領を訴える訴訟を起こした
▼周辺の反対もあったが、裁判所が違反と判断し、平和憲法は守られた。「奇跡ではないし特別な人間でもない。恐怖を乗り越えた行動の結果だ」というサモラ氏の言葉は重い
▼日本の憲法は、国家権力が暴走し悲惨な戦争へと突き進んだ反省を踏まえて生まれた。権力を制限するのが憲法だ。多くの国民が求めているわけでもないのに、憲法に縛られる側の権力者が改憲を声高に叫んでいることに危うさを感じる。

 

[通常国会召集]「安倍政治」総括の時だ - 沖縄タイムス(2020年1月20日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/524045
http://web.archive.org/web/20200120001333/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/524045

通常国会がきょう召集される。
第1次内閣と合わせた通算在職日数が憲政史上最長となった安倍晋三首相は、このままいけば8月には連続在職記録でも佐藤栄作を抜いて1位となる。
来年9月までの自民党総裁任期を考えるなら、今国会が「安倍政治」総括の時である。
世論が特に厳しい視線を向けているのは、首相主催の「桜を見る会」問題や自民党議員の公選法違反疑惑だ。
桜を見る会の招待者名簿を巡っては、2017年度までの5年間、行政文書の管理簿に記載がなかったほか、廃棄記録も残っていなかったなど公文書管理法違反が明らかになっている。政府自ら「違法」と認める事態に発展したのだ。
さらに昨年11月、内閣府が推薦者名簿を国会に提出した際、推薦した「内閣官房内閣総務官室」の部局名を隠す加工をしていたことが発覚した。
政府が総務官室の名簿は廃棄したと国会で答弁した直後の不可解な対応であり、整合性を取るための改ざんと疑われても仕方ない。
安倍政権下では、公文書を偽造したり、不都合な事実を隠すために廃棄するなどの問題が相次ぐ。官僚機構も官邸の意向を忖度(そんたく)するような言動が目立つ。
「逃げる政権」と「隠す官僚」が、国民の知る権利を傷つけ、行政への不信を増幅させているのだ。
真相解明のための徹底した国会論戦を望む。

■    ■

政治とカネの問題を巡り、昨年10月に相次いで辞任した菅原一秀経済産業相河井克行前法相の疑惑も解明されないままである。
河井氏の法相辞任は、妻の案里参院議員の選挙で、車上運動員に法定上限を超える報酬を支払った疑惑によるものだ。 
今月15日、広島地検公選法違反容疑で夫妻の事務所を家宅捜索した。当日夜になって2人は、2カ月半ぶりに公の場に姿を見せたが、捜査中を理由に疑惑の詳細に関する説明を拒んだ。選良としての説明義務は全く果たされていない。
菅原氏も同様である。
安倍政権でまん延しているのは、不祥事や疑惑についての説明責任を果たさず、世間の関心が薄れるのを待つという風潮だ。
安倍氏がたびたび口にする「任命責任」という言葉もただ語るだけ、その軽さが政治不信を助長させている。

■    ■

現行の日米安全保障条約は、19日で署名から60年を迎えた。在日米軍の駐留経費負担(思いやり予算)を巡る交渉が間もなく本格化する。
日米安保を「不公平」だと主張するトランプ米大統領は、交渉を前に思いやり予算の5倍増を要求してきたという。
トランプ氏とは全く視点が異なるが、この機会に在日米軍専用施設の約70%が集中する沖縄からも負担の見直しを求めたい。
誰がどう負担するのか、公平性について議論することも国会の大きなテーマである。

 

週のはじめに考える 「監視の目」築く中国AI - 東京新聞(2020年1月20日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020012002000141.html
https://megalodon.jp/2020-0120-0827-19/https://www.tokyo-np.co.jp:443/article/column/editorial/CK2020012002000141.html

人工知能(AI)の分野で欧米に後れを取っていた中国が近年、アクセル全開で研究開発を推進しています。中国政府は、労働力不足の解消や生産性の向上など、AIが切り開くバラ色の未来を語ります。しかし、目をこらしてみると、国民への「監視の目」を築く切り札というような「AI戦略」の思惑が垣間見えるようです。

交通違反者を「暴露」
江蘇省無錫市は、太湖で有名な風光明媚(めいび)な都市です。日系企業の無錫駐在員は「数年前に主要交差点の脇に、交通違反者暴露台という巨大な電光掲示板が出現し、驚きました」と話します。
これは、信号無視などの交通マナーの悪さに頭を痛めた地元警察が二〇一七年に導入したAIによる監視システムです。カメラが交通違反者を自動撮影し、警察が保管する個人情報と照合します。数分後には電光掲示板に、違反の動かぬ証拠映像を、本人の氏名や身分証番号と一緒に文字通り「暴露」し、罰金納付を通知します。
市民の中には「情報の一部にモザイクがかけられているとはいえ、プライバシー侵害ではないか」と反発する声もありますが、少数派だといいます。歓迎する声もあるようです。地元タクシーの運転手は「格段に交通違反が減った」と、話していたそうです。
上海市や南京市などでも次々と、似たような交通違反監視システムが導入されました。
しかし、こうしたシステムには恐ろしさすら感じます。「暴露台」というさらし者に近いやり方もそうですが、なぜ、監視カメラの映像だけで瞬時に本人が特定できてしまうのでしょうか。
ここに、「監視の目」の構築を狙いの一つとする「中国流AI戦略」の重点が透けて見えます。

スマホ実名登録のわな
そもそも、中国は一九八〇年代に、終身不変の十八桁の公民番号を付けた「居民身分証」により、戸籍や経歴などあらゆる個人情報の厳しい管理を始めました。
これに加え、新たに導入したスマホ契約者の実名登録制が、AIによる「監視の目」を可能にしたのです。スマホを購入するだけなのに、販売店では顔写真を撮影されます。契約時に提出する新たな個人情報に加え、身分証や顔写真の情報も、すべて一本にひも付けられるという仕組みです。
実名登録制は「テロ対策」を表向きの理由に始まりました。ところが政府や共産党の“知恵者”たちは、こうして一気に集めた膨大な個人情報を一元管理し、「交通違反者暴露台」などの運用にフル活用しているというわけです。
江蘇省では二〇一八年、香港の有名歌手のコンサートで、AIを活用した「顔認証システム」により、逃亡中の犯罪容疑者二十二人が一網打尽にされました。
中国全土には現在、二億台以上の監視カメラが設置されているといいます。
地下鉄やバスなど公共交通機関でのすり摘発にも顔認証はフル活用されています。上海市政府によると、昨年一月から十月までの市内のすり容疑者の検挙率は、前年同期比で31・5%上昇したといいます。
こうしたニュースに接した多くの国民が、進んだAI技術が犯罪減少に役立ったと拍手を送りました。しかし、スマホ売店で自らの個人情報を提供する時に、AIによる監視の基礎データになりかねないと危惧しながらも、仕方がないとあきらめの気持ちで当局の指示に従った人も少なくないでしょう。
欧米では一九五〇年代から六〇年代にかけAI研究は盛んになりました。社会主義の中国では指導部内にAIに批判的な意見もあり、七〇年代から八〇年代に、ようやく研究開発が進みました。
中国政府は二〇一七年、「次世代AI発展計画」を打ち出し、三〇年までにAI総合力を世界トップにするという目標を掲げました。軍事はともかく、経済やAIでは米国を抜き去る野心を露骨にしたように映ります。

◆ちらつく「管理」の鎧
昨年秋、世界最大のターミナルを擁する北京大興国際空港が開業しました。AIによる利便性が売り物で、チェックインの際に顔写真照合をすれば、保安検査、ラウンジ利用など、搭乗まで搭乗券提示などは不要だといいます。
しかし、時を同じくして、中国政府による、少数民族ウイグル族弾圧の実態が明るみに出ました。百万人以上を強制収容し、AIによる大規模監視システムで厳しく管理していたのです。
中国の「AI戦略」からは、「利便性」という衣の下に「厳格管理」という鎧(よろい)がチラチラ見えるようです。
むろん、中国政府にとって鎧が絶対的に重要であることは言うまでもありません。

 

プーチン大統領 歴史をゆがめる危うさ - 朝日新聞 (2020年1月20日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14332702.html
https://megalodon.jp/2020-0120-0607-52/https://www.asahi.com:443/articles/DA3S14332702.html

1939年8月。ドイツのヒトラーソ連スターリンという2人の独裁者が、密約を結んだ。両国が挟む欧州東部を山分けし、それぞれの勢力圏とする内容だった。それに基づきドイツ軍がポーランドに攻め入り、第2次大戦が始まった。
そのソ連時代の歴史について、ロシアのプーチン大統領が正当化する言動を繰り返している。2024年の退任後も自らの影響力を温存する思惑が絡んでいるとみられている。
開戦80年の昨年、欧州議会では、ナチスドイツとソ連が大戦への道を開いたと指摘する決議が採択された。これに対しプーチン氏は12月、「ソ連ナチスドイツを同一視するのは恥知らず以下だ」と反発した。
ソ連はドイツに続いてポーランド東部に侵攻したが、プーチン氏はその事実さえ「ポーランド政府は既に地域を統制できなくなっていた」と擁護した。
混乱に乗じて周辺国の領土を侵しても構わないと言わんばかりだ。6年前、隣国ウクライナクリミア半島を一方的に併合した振るまいにも通じる主張であり、容認できない。
独ソの密約については、冷戦が終結した89年、ソ連初の自由選挙で選ばれた人民代議員たちが「第三国の主権と独立に反しており、署名した時点で無効だった」とする決議を採択した。プーチン氏も11年前は、「ナチスとの協定は不道徳だった」と語っていた。そうした歩みを忘れた歴史観の退行である。
プーチン氏は個人崇拝や全体主義自体は批判しており、「我々が最初の犠牲者となった」と述べた。だが一方で、周辺国にもたらした甚大な損害に目を向けないのでは、公正な態度とは言えない。自身の正しさを主張して事実から目を背けるのは、先に発覚したスポーツ選手のドーピング問題にも通底する政権の体質といえる。
今年は第2次大戦ソ連がドイツを破って75年を迎える。5月に記念行事を開くプーチン氏は、今月の演説でも、ソ連を非難するような「歴史の改変」を阻む考えを強調した。
ソ連の勝利が欧州解放に貢献したのは事実だ。しかし歴史の全体像をみれば、負の側面も否めない。身勝手な歴史観を言い立てて自らの政治力維持に利用するようでは、近隣国が不安視するのも当然だろう。
日本にとってもひとごとではない。北方領土問題の起源は、スターリンが大戦末期に米英と結んだ密約を根拠に、千島列島を占領したことにさかのぼる。
ロシアは今、その正当性を認めるよう要求している。日本政府は、歴史修正に加担するような交渉は慎まねばならない。

 

共産党大会 共闘へ さらなる変化を - 朝日新聞(2020年1月20日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14332694.html
https://megalodon.jp/2020-0120-0537-43/https://www.asahi.com:443/articles/DA3S14332694.html

共産党大会が3年ぶりに開かれ、2004年以来となる綱領の一部改定や、安倍政権を打倒して「野党連合政権」の樹立をめざすとの決議を採択した。16年参院選以来の野党共闘をさらに進め、自公政権に代わる選択肢を示す狙いは明らかだ。
長期政権のおごりや緩みが次々と明らかになるなか、政治に緊張感を取り戻すことは喫緊の課題である。先の臨時国会共産党は「桜を見る会」の問題を掘り起こし、立憲民主党や国民民主党などによる統一会派と連携して存在感を示した。この勢いを次の衆院選につなげられるか、共闘の真価が問われる。
綱領改定では、「ジェンダー平等社会」の実現や「原発ゼロ」を追加。中国に対する認識を改め、「大国主義・覇権主義」への批判を盛り込んだ。
野党連携への布石という側面もありそうだが、日米安保条約の「廃棄」や自衛隊の将来的な「解消」は維持された。天皇制についても、前回の改定で「君主制の廃止」は削除されたが、民主主義や人間の平等と両立しないとの立場は崩していない。
選挙協力から、さらに踏み込んで、連立政権をめざすのであれば、国の根幹にかかわる基本政策をはじめ、幅広い施策のすりあわせは避けて通れない。
と同時に、安倍政権の暴走にブレーキをかけ、日本の民主主義を立て直すという大きな目標を見失ってはいけない。
共産党は「党の見解を政権に持ち込むことはしない」と大会決議に明記。志位和夫委員長もあいさつで「独自の政策を共闘に押しつけることは決してない」と強調した。各党がその理念や大切にする政策の旗を守りながら、現実の政治とどう折り合うか、その知恵が試される。
志位氏は閣外協力の可能性に言及したこともある。まずは小選挙区での協力態勢の構築や共通の公約づくりから、丁寧に合意を積み上げていくのが現実的ではないか。
野党勢力の間では、「非共産」といわれる、共産党を除く協力の枠組みが長く続いた。転機は安倍政権による安保法制の強行で、「1強多弱」への危機感が追い風となった。敗れたとはいえ、昨年の高知県知事選で野党各党が共産党系候補をそろって支援したのは象徴的だ。
一方で、共産党に対しては、党内の異論や少数意見が表に出にくい「民主集中制」への疑問や批判が根強く残る。開かれた党への脱皮は、「非共産」の枠を乗り越えるだけでなく、退潮傾向が続く党勢回復の足がかりにもなろう。共闘の実をあげるには、他の野党の歩み寄りも欠かせないが、共産党自身のさらなる変化が求められる。

 

伊方差し止め 原発ゼロへ転換すべきだ - 琉球新報(2020年1月20日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1059877.html
https://megalodon.jp/2020-0120-0916-16/https://ryukyushimpo.jp:443/editorial/entry-1059877.html

四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について、広島高裁が運転を認めない仮処分決定をした。伊方3号機の運転を禁じる司法判断は、2017年の広島高裁仮処分決定以来2回目だ。再び出た差し止め決定を業界や政府は重く受け止めるべきである。
今回主な争点となったのは、耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)や、約130キロ離れた熊本県阿蘇カルデラの火山リスクに関する四国電原子力規制委員会の評価の妥当性だった。
地震に対する安全性について四国電は、伊方原発がある佐田岬半島北岸部に活断層は存在せず、活断層が敷地に極めて近い場合の地震動評価は必要ないと主張していた。
だが高裁は「敷地2キロ以内にある中央構造線自体が横ずれ断層である可能性は否定できない」ことを根拠に挙げ、「四国電は十分な調査をしないまま安全性審査を申請し、規制委も問題ないと判断したが、その過程は過誤ないし欠落があった」と指摘した。
火山の危険性を巡っては、最初の禁止判断となった17年の仮処分決定は阿蘇カルデラ破局的噴火による火砕流到達の可能性に言及したが、その後の原発訴訟などでリスクを否定する判断が続いた。
だが今回は「破局的噴火に至らない程度の噴火も考慮すべきだ」として、その場合でも噴出量は四国電想定の3~5倍に上り、降下火砕物などの想定が過小だと指摘した。それを前提とした規制委の判断も不合理だと結論付けた。
東京電力福島第1原発事故で得られた教訓は「安全に絶対はない」という大原則だ。最優先されるべきは住民の安全であり、災害想定の甘さを批判した今回の決定は当然である。
国電は「極めて遺憾で、到底承服できない」と反発し、不服申し立てをする方針を示した。政府も原発の再稼働方針は変わらないとしている。だがむしろ原発ありきの姿勢を改める契機とすべきだ。
共同通信の集計によると原発の再稼働や維持、廃炉に関わる費用の総額は全国で約13兆5千億円に上る。費用はさらに膨らみ、最終的には国民負担となる見通しだ。原発の価格競争力は既に失われている。電力会社には訴訟などの経営リスクも小さくない。
一方、関西電力役員らの金品受領問題では原発立地地域に不明瞭な資金が流れ込んでいる実態が浮かび上がった。原発マネーの流れにも疑念の目が向けられている。
政府は依然、原発を重要なベースロード電源と位置付け、2030年度に電源構成に占める割合を20~22%に引き上げる計画だ。脱原発を求める国民世論とは大きな乖離(かいり)があり、再生可能エネルギーを拡大させている世界の潮流からも取り残されつつある。
政府や電力業界は原発神話の呪縛からいい加減抜け出し、現実的な政策として原発ゼロを追求すべきである。