日米安保改定60年 「盾と矛」関係の変質 - 東京新聞(2020年1月19日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020011902000113.html
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現行の日米安全保障条約の署名からきょう十九日で六十年。自衛隊専守防衛に徹し、打撃力を米軍に委ねてきた「盾と矛」の関係は、冷戦終結後、自衛隊の役割拡大に伴って変質しつつある。

       ◇

「日米同盟は、日米両国の平和と安全を確保するに際して不可欠な役割を果たしてきており、今後もその役割を果たし続ける」
日米両国の外務防衛担当閣僚は条約署名六十年に当たって発表した共同声明で、日米安保体制が果たしてきた役割を強調した。

◆旧条約で米軍駐留継続
現行安保条約は一九六〇年、旧安保条約を改定したものだ。
五一年、サンフランシスコ対日講和条約と同時に締結された旧条約は日本の独立回復後も米軍の駐留を認めることが主眼だった。
占領軍さながらに日本国内の内乱に米軍が対応する記述がある一方、米軍の日本防衛義務は明記されておらず、独立国としてふさわしくない条約と見られていた。
旧条約を結んだ吉田茂首相の退陣後、五四年に発足した鳩山一郎内閣から条約改定に向けた動きが始まる。その狙いは米軍撤退に備えて日本の自衛力を増強し、相互防衛的な条約にすることだった。
しかし、基地使用の制限を恐れた米国側は、日本の自衛力不足を理由に否定的だった。
再び条約改定に臨んだのが安倍晋三首相の祖父、岸信介首相だ。五七年、就任四カ月後に訪米し、アイゼンハワー大統領との間で旧条約が「暫定的なものである」ことを確認し、翌五八年から安保改定交渉が始まった。
そして六〇年一月十九日、日米両政府は現行の安保条約に署名。条約案は五月二十日、混乱の中、衆院を通過、三十日後の六月十九日に自動承認され、岸首相は条約発効を見届けて退陣を表明する。

◆基地提供の義務は重く
現行の安保条約は戦争放棄と戦力不保持の憲法九条の制約が前提だ。自衛隊は「盾」として専守防衛に徹し、「矛」としての米軍が打撃力を受け持つ関係である。
日本は米軍への施設提供義務、米国は日本防衛義務をそれぞれ負う。非対称ではあるが、ともに義務を負う「双務条約」である。
しかし、米国だけが軍事的負担を強いられ、日本はただ乗りしているという「安保ただ乗り論」が米国内では時折、頭をもたげる。
米軍への施設提供は日本にとって重い負担であり、ただ乗り論は妥当性を欠くが、米政権は自国の経済財政状況が厳しくなるたびに一層の負担や役割の拡大を求め、日本側が応じてきたのが現実だ。
日本は条約上の義務のない人件費や光熱水費などを「思いやり予算」として負担し続け、自衛隊は装備を増強し、海外派遣も常態化した。極め付きは歴代内閣が憲法上許されないとしてきた「集団的自衛権の行使」を、安倍内閣の判断で容認したことだろう。
自衛隊は長距離巡航ミサイル導入や事実上の空母保有など、憲法上許される「必要最小限度」を超えかねない装備を持ち、憲法解釈の変更で限定的ながら海外で米国とともに戦えるようになった。
長く「盾」だった自衛隊は条約改定から六十年を経て、米英同盟のようにともに戦う「軍隊」へと変質し、米国の紛争に巻き込まれる危険性は確実に高まっている。
日米安保は戦後日本の平和と繁栄の基礎となり、ソ連を仮想敵とした冷戦終結後も、アジア太平洋の安全保障という新たな役割を与えられ、続いてきた。
ただ、安保条約は日米だけでなく日本と近隣諸国との関係、日本の政治や防衛政策、さらには憲法の在り方にも影響を与えてきた。無批判に継続するのではなく、常に検証する必要があるだろう。
在日米軍は適正規模なのか、一地域に過重な負担を押しつけていないか。在日米軍専用施設の70%が集中する沖縄の現状を放置して日米安保の円滑な運用は難しい。
思いやり予算は、五年ごとの改定が二〇二〇年度に行われるが、米側は四倍増を求めているとされる。米軍駐留に伴う日本側の総経費は年間八千億円近くに上り、これ以上の負担増は妥当なのか。安倍内閣が高額な米国製武器の購入を増やしていることも問題だ。

◆たゆまぬ見直しが必要
東アジアの安全保障環境は、中国の軍事力増強や北朝鮮による核・ミサイル開発など依然厳しい。日米安保体制が、警察力としての米軍の存在を支え、地域の安定に一定の役割を果たしてきた。
かと言って、日米安保が軍拡競争の誘因となり「安全保障のジレンマ」に陥っては本末転倒だ。
「同盟」関係はよくガーデニング(庭造り)に例えられる。手入れを怠れば荒れるという意味だ。日米安保体制は今のままでいいのか、新しい時代に対応し、平和憲法の理念を実現するためにも、たゆまぬ見直しが必要である。

 

日米安保条約改定60年 激動期に適合する同盟に - 毎日新聞(2020年1月19日)

https://mainichi.jp/articles/20200119/ddm/005/070/035000c
http://archive.today/2020.01.19-013143/https://mainichi.jp/articles/20200119/ddm/005/070/035000c

日米安全保障条約改定の調印から60年を迎えた。米軍駐留を認める旧条約を更新し、米国の日本防衛義務を明確にした。同盟の土台である。
1960年は米ソ冷戦のさなかだった。戦争に巻き込まれると訴える反戦平和の大規模な反対運動が起き、社会は騒然となった。
それでも日本が再び戦禍を被ることがなかったのは、平和主義の理念だけでなく世界最強国との同盟が結果的に抑止力となったからだろう。
60周年に先立ち、茂木敏充外相の表敬を受けたシュルツ元米国務長官は「引き続き日米同盟が強固であるよう願っている」と述べた。
レーガン政権で日米関係の強化を進めたシュルツ氏は同盟を「庭造り」にしばしば例えた。手入れを怠れば荒れ放題になるという戒めだ。
いまの日米関係は管理が行き届いているだろうか。

抑止力を持つ安定装置
「日本が攻撃されればあらゆる犠牲を払って米国は第三次世界大戦を戦う。しかし、米国が攻撃されても日本は助ける必要はまったくない」
トランプ米大統領は昨年、日米安保条約は不公平だと米メディアに語った。持論の日本による安全保障の「ただ乗り」論である。
同盟は脅威を共有する国同士が軍事的な行動を共にする枠組みだ。ただし、現行憲法下で海外での日本の軍事行動は制約されている。
条約は一方で米軍への基地提供を義務付けた。米軍は抑止力を提供しただけでなく、日本周辺海域の航行の安全を確保し、貿易の拡大など経済的な恩恵も双方にもたらした。
共通の敵だったソ連の崩壊後も同盟が存続したのは、北朝鮮や中国など新たな脅威に対処する安定装置としての役割を見いだしたからだ。
日本は朝鮮半島台湾海峡での有事を想定した周辺事態法や有事関連法、集団的自衛権行使を認めた安保関連法を次々と制定した。
同時多発テロ後の対テロ戦争ではインド洋に補給艦を派遣し、イラク自衛隊部隊を送った。いずれも米国の軍事行動への支援だ。
米国も東日本大震災時に2万人を超える米軍を被災地に派遣した。オバマ前大統領の被爆地・広島訪問は成熟した関係を物語った。
日米が強固な関係を築いたのは、ともに役割を拡大し、相互に信頼を高めてきたからに他ならない。「ただ乗り」は的外れの指摘だ。
その米国は国際社会での影響力を低下させている。長引くテロとの戦いで疲弊し、世界の課題に関わろうとしなくなった。一方で中国やロシアは強権的な振る舞いを隠さず、米国に対する挑戦を続けている。
米中露の力関係が揺らぎ、激変期に差し掛かる国際情勢の変化に日本はどう対応すべきだろうか。

対米追従からの脱却を
まず同盟を固め直す必要がある。トランプ氏は米軍駐留経費の負担増額を日本に要請しているが、同盟の価値はカネで測れるものではない。
負担の多寡で配備する軍事力を決めるなら、適切な抑止力にはならない。共通の価値観を守る目的がかすみ、同盟は衰退する。
同盟をトランプ氏は弱めるかもしれない。だからといって近い将来、軍事力と経済力で米国に勝る国が現れるとも思えない。
日本にとって米国との同盟が安全や経済の利益を最大化する基盤であることに変わりはない。同盟の維持と強化は最も現実的な選択だろう。
北朝鮮の核・ミサイルや中国の海洋進出には米国を基軸に同盟国同士の連携が不可欠だ。すでに日米韓や日米豪、日米印などの枠組みがある。日本は新たなネットワークづくりを引き続き主導すべきだ。
米国依存が生んだ対米追従の構図から脱却することも迫られる。
今回の中東海域への護衛艦派遣は米国に配慮した結果だ。自衛隊の海外派遣は日本の安全を優先にすべきで安易な運用は平和主義を損なう。
米国追従のいびつさを象徴するのが沖縄の米軍基地問題である。
日本政府は安保をたてに沖縄の反発を抑え込もうとしている。そうして建設された基地の運営は不安定になる。米国の利益にもならない。
駐留米軍の特権を認めた日米地位協定も手付かずだ。事故の危険と騒音に苦しむ住民の負担を軽減できるよう地位協定の改定は急務だ。互いの信頼が低下すれば同盟も揺らぐ。
現実の世界に適合する同盟を構築する。そのために、不断の手入れが重要なのは言うまでもない。

 

安保改定60年 安定と価値の礎として - 朝日新聞(2020年1月19日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14332433.html
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60年前のきょう、現在の日米安保条約が調印された。
米軍の基地使用だけが明記されていた片務的な旧条約を、岸信介首相が改定し、米国に日本防衛の義務を課した。以来、日本の外交・安全保障政策の基軸であり続けている。
一方で、安保闘争といわれる大規模な反対デモのなか、国会承認が強行された歴史も思い起こされる。それは5年前、安全保障関連法の成立に突き進んだ安倍首相の姿に重なる。
日本では安保条約が憲法より上位にある――。過重な米軍基地の負担に苦しむ沖縄で何度も語られてきたこの言葉は、本来、安保が守るべき価値が、その名のもとに踏みにじられてきた現実を物語る。
安保条約は前文に「民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配」の「擁護」を掲げる。こうした普遍的な価値を重んじ、国際規範に基づく秩序の形成に寄与することこそ、日本が進むべき道であり、それに資する安保でなければなるまい。
だが、米ソ冷戦の30年をへて、ポスト冷戦の30年を振り返った時、軍事的な協力態勢の強化と、繰り返される自衛隊の海外派遣によって、憲法9条に示された理念が後退し続けていると言わざるをえない。
さらに今、「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領の登場で、米国自体の近視眼的な判断が安全保障のリスクとなっている。国際秩序の擁護者でなく、むしろ混乱要因となった米国とどう付き合うのかは、これまで以上に難題だ。
この先の日米関係を考えるうえで、心に留めるべきことは、いくつもある。
第一に、日米安保を対立の枠組みにしてはならない。米中両大国が覇を争う時代は続くだろうが、中国の隣国でもある日本は、米中の共存を促すべきだ。
第二に、米国の単なる代弁者であってはならない。地域や国際社会のために何が有効か、日本自身が主体的に考え、必要な時には米国に苦言を呈さねばならない。
第三に、国民の理解と支持が不可欠だ。安保条約と同時に結ばれ、在日米軍に様々な特権を認めた日米地位協定によって、沖縄に限らず、日本の各地で、住民の暮らしや権利が脅かされている。この状況は一日も早く解消しなければならない。
中国の軍拡や北朝鮮の脅威など、日本を取り巻く環境の厳しさを考えれば、日米安保の重要性はこれからも変わるまい。
であればこそ、米国にただ付き従うのではなく、安定した国際秩序をいかに築くか。60年の積み重ねを踏まえた深慮を、日本外交が示す時である。

 

日米安保改定60年 沖縄のトゲ抜く責務ある - 琉球新報(2020年1月19日)

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1059489.html
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現行の日米安全保障条約が署名されて60年を迎えた。米国が日本を守り、日本は基地を提供して米軍の活動を支える協力関係が定められた。しかし、提供された在日米軍専用施設面積の7割は沖縄に集中する。米軍による事件事故、騒音や土壌汚染といった環境破壊などの過重な負担は「安保のトゲ」として県民に突き刺さり続けている。
日米安保を維持したいならば、「沖縄の負担軽減」は国の責務であるはずだ。しかし政府は日米同盟を優先し、沖縄県民の反対を押し切って米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古への新たな基地建設を進める。明らかに矛盾している。
政府は沖縄の過重な負担を軽減することを米国と真剣に交渉すべきだ。さらに事件事故や環境問題などが起きても日本の捜査や司法手続きが制約され、米側の運用が優先される日米地位協定を改定するよう強く求める。
日米安保の旧条約は敗戦後、日本が「独立」し、沖縄などが切り離されて米施政権下に置かれた1952年に発効した。日本は米国の同盟国となり、米軍の駐留を認めた。60年に改定された現条約は第5条で米国に日本防衛の義務を課し、第6条で日本に米軍への基地提供を義務付けた。その後の日本は「軽武装・経済重視」の政策を取り、高度経済成長に向かう。
しかし沖縄は日米安保条約が結ばれた際は米施政権下にあり、国会に代表も送れず、条約の批准に何の発言権もなかった。高度成長の恩恵もなかった。
県外で激しくなった反米軍基地運動を受けて50年代に山梨や岐阜から沖縄に海兵隊の第3海兵師団が移り、69年には海兵航空群が山口県岩国基地から普天間に移った。本土の負担軽減の策として、米施政権下で核兵器も配備でき、米国人の優先的扱いが可能な沖縄に基地が移転されたのである。
日本復帰して現在に至るまで、沖縄の負担は変わっていない。東西冷戦の終結に伴い、主に旧ソ連に対抗する軍事同盟だった日米安保は、アジア太平洋地域の安定装置として再定義され、現在は中国への対処を強めている。
日米を取り巻く安全保障環境は変化しているのに、日米安保のひずみを引き受けるのは沖縄だけという状況が許されるのか。
この状況は日本国民の、日米安保の恩恵は享受したいが米軍施設は嫌だという「Not In My Back Yard」(うちの裏庭にはご免)の論理に基づいている。無意識の「構造的差別」を日本国民が自覚しない限り、沖縄のトゲは抜けない。
翁長雄志知事は「沖縄が日本に甘えているのか、日本が沖縄に甘えているのか」と問うた。政府は新たな負担となる辺野古新基地建設をやめ、米国と沖縄の負担軽減について話し合うべきだ。

 

自らの報道局にカメラを向けた「テレビの自画像」 ドキュメンタリー映画「さよならテレビ」 土方宏史さんインタビュー - 毎日新聞(2019年12月27日)

http://archive.today/2020.01.19-005014/https://mainichi.jp/articles/20191227/mog/00m/040/006000c

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bunshun.jp

 


東海テレビドキュメンタリー劇場第12弾『さよならテレビ』予告編

 

伊方差し止め 安全への姿勢を迫った - 京都新聞(2020年1月18日)

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/130554
https://megalodon.jp/2020-0119-0853-50/https://www.kyoto-np.co.jp:443/articles/-/130554

四国電力伊方原発3号機(愛媛県)の運転禁止を求めて山口県の住民が申し立てた仮処分の即時抗告審で、広島高裁がきのう、運転を認めない判断を下した。
3号機を巡っては2017年12月、同高裁が別の仮処分で運転差し止め決定を出している。
一つの原発に司法が2度の運転差し止めの判断を示したことを、関係者は重く受けとめるべきだ。
きのうの決定で高裁は、四国電地震や火山に対するリスク評価や調査を「不十分」と指摘した。
安全性に問題がないとした原子力規制委員会の判断にも誤りがあるとした。
福島原発事故で「安全神話」は崩壊し、既存原発の再稼働に対する国民の懸念は深まったままだ。
今回の差し止め決定は、そうした不安に正面から向き合うよう厳しく迫ったといえる。
再稼働を優先する電力会社や政府の姿勢に厳しい注文をつけた形だ。四国電や規制委は、安全対策や審査体制を抜本的に見直さなくてはならない。
17年12月の差し止め決定で理由の一つに挙げられたのは、阿蘇カルデラ熊本県)が破局的な噴火をした場合に火砕流原発を直撃する可能性だ。
これに対して同高裁の異議審は18年9月、「大規模な破局的噴火が起きる可能性の根拠が示されていない」などとして再稼働を認める正反対の結論を出した。
だが、きのうの決定では「阿蘇カルデラ破局的噴火に至らない程度の噴火も考慮するべき」と、改めて噴火リスクを指摘した。
同じ原発の再稼働を判断する科学的根拠について、すれ違った司法判断が繰り返されている。
原発を巡る環境は厳しい。伊方3号機は今年4月に営業運転に入る予定だったが、変更は避けられまい。新たなテロ対策施設を設ける期限も来年3月に迫っている。
「世界で最も厳しい審査基準」への合格を切り札に、伊方3号機など5原発9基の再稼働を実現したが、ほとんどの原発では再稼働の見通しが立っていない。
審査をクリアすることと、司法判断を含めた社会の受けとめには大きな開きがあるのではないか。
国電は今回の決定に不服申し立てをする方針で、再稼働を巡る法廷での争いは続きそうだ。
伊方原発に関しては他の地裁でも運転差し止めの仮処分が申し立てられ、運転容認の決定が出ている。事故を繰り返させない判断が問われている。

 

伊方差し止め 原発の安全を問い直す - 朝日新聞(2020年1月18日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S14331153.html
https://megalodon.jp/2020-0118-0621-45/https://www.asahi.com:443/articles/DA3S14331153.html

原発のすぐ近くに活断層がないとは言い切れず、地震対策に誤りがある。火山噴火への備えも想定が小さすぎる。
福島第一原発の事故を受けた新規制基準に沿って進められている電力会社の安全対策、およびそれを認めてきた原子力規制委員会の判断に疑問を突きつける司法判断が示された。
愛媛県四国電力伊方原発3号機について、広島高裁が運転を当面認めない決定を出した。山口県内の住民が運転差し止めを求めたのに対し、昨年春の山口地裁岩国支部の決定は却下したが、広島高裁は申し立てを認めた。
概要はこうだ。
伊方原発佐田岬半島の付け根にある。四電は詳細な海上音波探査の結果「原発のすぐ近くに活断層はない」として対策を進め、規制委もそれを認めたが、高裁は中央構造線に関連する活断層がある可能性を否定できないと判断。活断層が至近距離にある場合の評価作業を欠いているとした。
火山噴火の影響では、新規制基準の内規である「火山影響評価ガイド」に従って、熊本県阿蘇山の噴火が焦点となった。
高裁は、数万年前に実際にあった「破局的噴火」については、原発以外の分野で特に対策がとられていないことを理由に「社会通念上、容認されている」とした。その一方で、破局的噴火には至らない最大規模の噴火について検討。火山灰などに関する四電の想定がその数分の1に過ぎないとして、対策の不十分さとそれを認めた規制委の判断の不合理さを指摘した。
四電は決定を不服として争う方針だ。規制委も「新規制基準は最新の科学的・技術的知見に基づいており、適切に審査している」と反発している。
しかし、高裁の判断を聞き流してはならない。
福島のような事故を起こさないよう高度な安全性を求めてできたのが新規制基準である。専門家の間で見解が対立している場合は、通説だからとの理由で厳しくない方を安易に採用してはならない――。高裁は判断の立場をそう説明した上で、四電の音波探査を「不十分」と結論づけた。専門家の意見が分かれる中での判断である。
火山ガイドについても、噴火の時期と程度を相当前に予測できるとしている点について「不合理」と批判した。2018年秋にも同様の指摘がされた問題だ。いつまで放置するのか。
異見にも謙虚に耳を傾け、新規制基準とそれに基づく対策を不断に見直していく。そうした姿勢を欠けば、いくら「基準も審査も万全」と訴えても納得は得られない。

 決定要旨

http://www.datsugenpatsu.org/bengodan/wp-content/uploads/2020/01/%E8%A6%81%E6%97%A8.pdf

伊方3号機運転認めず 広島高裁、仮処分決定「活断層否定できぬ」 - 中國新聞(2020年1月17日)

https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=605025&comment_sub_id=0&category_id=256

http://archive.today/2020.01.18-001656/https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=605025&comment_sub_id=0&category_id=256

<金口木舌>ほど遠い共生社会 - 琉球新報(2020年1月18日)

https://ryukyushimpo.jp/column/entry-1059035.html
https://megalodon.jp/2020-0118-0918-52/https://ryukyushimpo.jp:443/column/entry-1059035.html

障がい者向けの就労支援事業所としてアパートを借りたい…」。那覇市内の事業所の理事長が依頼したところ、家主の態度が変わり断られた。障がい者の話題に触れた直後だった。取材で事業所から聞いた話だ

▼理事長は「家賃が払えない、隣近所の反応が心配―といった間違ったイメージを持っている」と推測する。事業所は公的な補助金で運営しており、家賃が滞る心配はない。知人から一軒家を借りて開所したが、後味の悪さは残った
▼共生社会がうたわれて久しいが、障がい者に対する差別は根強い。取り組みは道半ばだ。相模原市の知的障がい者施設で45人が殺傷された事件。殺人罪に問われた被告の発言に胸が悪くなる
▼「重度障がい者は不幸を生む、社会からいなくなった方がいい」。理解し難い身勝手な理屈を繰り返す。事件を正当化しようとする姿勢も変わらない。類似する事件が発生しないための方策を皆で考えなければならない
▼県立図書館で精神保健の歴史をたどる企画展を開催中だ。沖縄では戦後から日本復帰の時期まで、精神障がい者の「私宅監置」が認められていた。十分な治療が受けられず、苦しむ患者を家族がやむなく自宅の敷地内に閉じ込めていた
▼地域の偏見が患者と家族を苦しめた。つらい歴史だが忘れてはならない。差別や排除を生み、助長する要因が社会の側にある。

 

(政界地獄耳) あるか疑惑隠しの延命やけっぱち解散 - 日刊スポーツ(2020年1月18日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202001180000037.html
http://archive.today/2020.01.18-002739/https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202001180000037.html

★来週から国会が開会する。野党は「桜を見る会」疑惑、そこからスピンオフした首相・安倍晋三夫妻にかかわる疑惑、前夜祭疑惑、ジャパンライフ疑惑など、多岐にわたる「桜を見る会」疑惑、カジノ汚職事件、前経産相菅原一秀、前法相・河井克行夫妻の公職選挙法疑惑、秋の国会ではやらなかった関西電力の金品授受問題など、予算委員会を舞台に政権への質問は「いくらでもある。材料も相当仕込んである」(野党国対関係者)と手ぐすね引いている。

自民党は手をこまねいてみているだけなのか。予算委員会での野党の攻勢をかわし切れるのか。自民党関係者が言う。「公明党の了解を取り付けているかはわからないが、党幹事長・二階俊博、副総理兼財務相麻生太郎も『やるなら今しかない』と2月の解散に賛成だ。冒頭で補正予算を通した後、解散して予算委員会を粉砕、選挙後ではそんな話、国民は忘れている」。二階、麻生ともに既に政治家としての賞味期限は切れていて、次は引退といわれている。自らの政治家としての延命と今のポストに固執しているのではないか。

★では選挙に自民党は勝てるのか。もし選挙になれば勝敗ラインを公明党と合わせて過半数とするだろう。政権交代することはないだろうが、実際は負け幅で首相の責任論は出るだろう。16日、首相は党本部で憲法改正について「制定から70年あまりが経過し時代にそぐわない部分は改正を行うべきだ。最たるものが憲法9条だ」と改めて憲法改正に意欲を見せたが、それがついえる段階で退陣を余儀なくされるだろう。この「やけっぱち解散」に大義はなく、疑惑隠しの延命解散でしかない。まして予算委員会が乗り越えられないからの解散となる。首相がかじを切るのか、桜散る解散か。(K)※敬称略