<金口木舌>疑わしきは被告人の利益に - 琉球新報(2024年10月3日)

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犯罪の事実があったのかどうか確信を持てない場合には被告人に不利な判決をしてはならない。刑事裁判の大原則が法格言にある。「疑わしきは被告人の利益に」
▼事件に対する刑罰は人の自由を制約する。命を奪う死刑もある。誤った判断は取り返しがつかない。ゆえに犯罪事実の認定は慎重にも慎重でなくてはいけない。法格言は裁判にあたっての戒めでもある
▼その法格言をないがしろにしたとしか思えない。1966年に静岡県で発生した一家4人殺害事件の再審公判で静岡地裁は、88歳の袴田巌さんへ無罪を言い渡した。その根拠にがくぜんとする。証拠品や自白調書は警察と検察のねつ造だという
▼袴田さんを犯人にでっち上げるために、うそにうそを重ねていた。姉のひで子さんが30日、都内の日本記者クラブで語った。「やっと再審開始になって無罪判決をいただいた」。ここに至るまで58年だ
▼事件発生後の一審では裁判官の1人が自白調書などに疑いを抱いていたことが2007年に明らかになった。「疑わしき」はあったのに、なぜ。袴田さんに取り返しのつかない年月が流れた。それが何より罪深い。