【寄稿】弱者救済策から漏れた白人労働者、その心掴んだトランプ氏 山岸敬和・南山大教授(米国政治)- 東京新聞(2024年3月6日)

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アメリカ大統領選はスーパーチューズデーの結果を受け、民主党のバイデン大統領と共和党のトランプ前大統領が再対決することが確実になった。どちらが当選しても大統領の就任時点で史上最高齢となり、心身の健康など不安は尽きない。にもかかわらず、なぜまたこの2人なのか。

トランプ氏の強さの背景には、多くの有権者民主党による政治、さらにはそれを支持する既得権層に対して不満や憤りを抱き続けていることがある。


民主党は、長らく「経済的・社会的弱者のための政党」を自任してきた。それは1930年代、大恐慌への対応として、社会保障政策の拡大や労働者の権利などを主張したときから始まった。60年代には「偉大な社会」計画の中で、貧困層や社会的少数者(マイノリティー)に対するさまざまな政策を進めた。

しかし2016年にトランプ政権を生み出した原動力となったのは、そうした政策の対象から漏れた白人労働者たちだった。

多くの白人労働者が、工場の海外移転などにより前世代と比べて時給が下がり生活が苦しくなった。それなのに民主党は人種・民族・性的マイノリティーや不法移民の権利拡大に向けて奔走するばかりで自分たちを構ってくれない、と感じている。45年までには白人が米国の人口の半数を下回るという予測も白人労働者をさらに動揺させる。

こうした行き場のない不安や憤りを代弁しているのが、「米国第一主義」を訴え、敵と味方を明確に分け、「炎上」覚悟で乱暴な言動をいとわないトランプ氏であり、熱狂的な支持は4年前にバイデン氏に敗北を喫した後も続いている。

バイデン氏は、現職の大統領であり「過去にトランプを倒した候補」であることが民主党内の説得材料ではある。しかし、弱者救済の政党という理念を失いつつある民主党を変えるための強いメッセージは今のところは感じられない。

11月の本選挙に向けて、2人が、米国の将来像をどのように語るか、注目していきたい。(寄稿)