〈視点〉校長免職と裏金事件 コーヒー1杯分の重み(論説委員・竹内洋一さん) - 東京新聞(2024年2月27日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/311598

コーヒー1杯は、かくも重かった。

兵庫県教育委員会は1月、コンビニのセルフコーヒーを支払った額より多く注いだとして、高砂市立中学校の男性校長(59)を懲戒免職にした。

県教委によれば、校長は昨年12月21日、市内のコンビニでレギュラーサイズのコーヒー(110円)を買い、機械でラージサイズ(180円)を選んでカップに注いだ。店員が警察に通報した。

県警は任意で捜査し、検察庁は不起訴(起訴猶予)とした。コーヒー1杯、レギュラーとラージの差額70円分の窃盗なら、刑事責任を問うに値しないと判断したのだろう。だが、社会的責任からは逃れられなかった。

校長は県教委の聞き取りに同様の行為を以前にも6回したと認めたという。県教委は「教育公務員としてふさわしくない」と断じた。校長は地位も、間もなく手にするはずだった退職金も失った。

処分が厳しすぎるとの意見もあろうが、これが一般社会の現実である。誰もが法令順守の徹底を求められる。

自民党派閥の政治資金パーティー収入からの還流を政治資金収支報告書に記載しなかった議員は85人に及んだ。うち刑事責任を問われたのは3人。校長の懲戒免職と並べた時、法律に違背した議員の大多数が政治責任を取らずに職にとどまる永田町の景色は、醜悪というほかない。

裏金議員は全員が辞職に値する。違法と知りつつ裏金に手を染めるような手合いには立法を任せられない。違法性を認識していなかったなら議員たる資質と能力を欠く。

とはいえ、潔く身を処する人物であれば、そもそも裏金づくりなどするまい。保身は人の常だ。2千万円超の年収と特権的な手当は手放したくなかろう。脱税との批判を真摯(しんし)に受け止め、自ら修正申告した例も聞かない。

逃れようのない結果に直面させる手段はある。件(くだん)の校長が地方公務員法に基づき、いや応なく馘首(かくしゅ)されたように。次期衆院選は来年秋までに、参院選は同年夏に行われる。選挙が自由かつ公正である限り、有権者の多数が望む結果が導き出される。

話はコーヒーに戻る。裏金議員も党を介して受け取る政党交付金は毎年300億円超が税金から支出される。国民1人当たり年250円の計算で、導入が決まった1994年当時は「コーヒー1杯分」の負担と言われた。

その際、企業・団体による政治家個人や政治団体への寄付は禁じられたが、パーティー券を購入して実質的に献金する抜け道は残り、裏金事件の温床になった。裏金議員はコーヒー1杯分の重みを忘れていたに違いない。

私たち有権者はどうか。気前よく政党交付金を負担しつつ、ほぼ半数が国政選挙で棄権した結果、自民党の腐敗を見過ごしてこなかったか。自問しながら飲むコーヒーは、かくも苦い。

 

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