<視点>自公連立と東順治さん 「カチコミ」の気概忘れず 論説委員・竹内洋一 - 東京新聞(2023年11月8日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/288689

自民党に信頼する議員はいますか」

先月、公明党幹部に尋ねてみた。連立を組む両党間で相次いで軋轢あつれきが表面化する背景として、議員間のパイプが細っていると指摘されているからだ。自民党議員の個人名は返ってこなかった。

自公両党が一度は東京都での選挙協力を解消することになった5月、公明党石井啓一幹事長は自民党茂木敏充幹事長らに「東京での自公の信頼関係は地に落ちた」と言い放った。友党間では、いささか抑制を欠いた表現だ。

さらに度が過ぎたのが、自民党麻生太郎副総裁の9月の暴言である。国家安全保障戦略の改定に向けた議論で、敵基地攻撃能力の保有に慎重だった公明党に不満を募らせていたにせよ、公党の幹部の名前を呼び捨てに並べて「がん」はない。連立解消論と受け取るべきだろう。

自公両党の関係に秋風が立つ中、公明党の東順治元副代表の訃報に接した。77歳。どんな人にも個人として向き合う「人間好き」だった。

国対委員長を務めた2000年代前半には、毎朝、自民党中川秀直国対委員長を国会内の部屋に訪ねた。中川氏が映画「仁義なき戦い」の舞台・広島の選出だったことから、東さんは毎朝の面会を冗談交じりに「カチコミ」と呼んだ。大政党である自民党の幹部と渡り合うには、殴り込みをかけるくらいの覚悟で顔を突き合わせなければならないという意味だった。

2人は必ずしも相性が良かった訳ではないが、こうした意思疎通の努力が自公両党の議員間で複層的に行われたからこそ、理念も背景も異なる政党の連立が20年以上も維持され、憲政史上に類を見ない長さになった。水面下で論争や対立があっても個人間に信頼があれば、表だっての非難は慎まざるを得ない。

山崎拓冬柴鉄三両幹事長、大島理森・漆原良夫両国対委員長は緊密な関係で知られた。安倍晋三首相との間は代表だった太田昭宏氏がつないだ。東さんも副代表になってからは、福田康夫首相、次いで首相になった麻生氏とのパイプ役たらんと奮闘した。

連立の現状を憂えているわけではない。むしろ公明党が何のために連立にとどまるのか理解しかねている。

連立参加から24年、公明党が重んじる「大衆」の暮らしは上向いていない。集団的自衛権の行使や敵基地攻撃能力の保有を認めてしまった「平和の党」に、もはや歯止め役は期待できまい。比例代表の得票も05年の衆院選をピークに減少傾向にある。

自公間で信頼関係を築いたキーマンたちが表舞台から去っても、選挙互助で結び付く連立は当面続くだろう。

ペンを持って政権と対峙たいじする側こそ「カチコミ」の気概を忘れてはならない。毎朝、肩をいからせ、大股で、国会の廊下を歩いていた東さんの後ろ姿を偲しのび、思いを新たにした。