【政界地獄耳】水産物輸入禁止の表現「一時的」欠落に見る日中外交ゲームの失敗 - 日刊スポーツ(2023年9月9日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202309090000066.html

インドネシアジャカルタの6日昼、ASEANプラス3(日中韓)首脳会議の直前、控室に中国の李強首相が入ると同時に、待ち構えていた首相・岸田文雄は歩み寄り、2人は通訳を交えいささか長い約15分間の立ち話外交を繰り広げた。「建設的かつ安定的な日中関係の構築は重要だ」が首相の最初の言葉だそうだが、7日の会見で官房長官松野博一は「立ち話を行ったことは、建設的かつ安定的な日中関係の構築に向け極めて重要であったと考えている」ともろ手を挙げ評価した。

★ただ、それが中国サイドにどう伝わったかは計り知れない。首相も「待合の場で出会い、あいさつをするなかで会話が始まった」と自然な形での会話を演出するが、いささか情緒的な各紙の両首脳の立ち話原稿ではなかなかその実態はつかめない。一方、外務省は官邸ホームページに「李強・中国国務院総理との立ち話についての会見」と仰々しく立ち話の後の首相の説明を載せているが「中国・李強首相と立ち話を行いました。その中でのやり取りについて質問がありましたが、外交のやり取りでありますので、具体的に、先方の反応等について、私から申し上げることは控えなければならないと思っています」とあっさりしたものだ。

★この問題をもう一度おさらいしておこう。8月24日、処理水の海洋放出開始。中国は当初、10都県の食品輸入禁止を訴えていたが、実際には同日、中国税関総署は「日本産の水産物輸入を同日から全面的に停止する」と発表した。政界関係者が耳打ちする。政治キャンペーンや経済制裁なのはわかっているが、日本政府はこの発表を意図的に改ざんした。中国税関は「一時的に」という一言をつけて発表したが、なぜかそこが抜け落ちていて、反中感情をあおった節がある。別の政界関係者は「自公の親中派も寄せ付けないので、年内は軟化の兆しはない」。両国にとって政治・外交ゲームの失敗とみるべきだろう。(K)※敬称略