<金口木舌>「ありがとう」も言えない - 琉球新報(2023年7月3日)

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ハンセン病の強制隔離政策を違憲とした22年前の熊本地裁判決の夜。回復者の女性が押し入れの隠し穴から外の様子を見ていた幼い日のことを語ってくれた

▼近所の子の通学風景や、周囲の嫌がらせに耐える母を見た。庭先に雑誌を置いてくれる知り合いのお姉さんの姿も見た。「ありがとう」を伝えたかったが「終生無理だ」と言った。青春期の15年間強制隔離され、その後も身を隠して生きた
ハンセン病に関する本紙の県内41市町村アンケートでは回復者の数を「把握していない」が35自治体に上った。理由の大半は「回復者や家族からの申し出がない」から
▼日本はこの病を「国辱」とみなし、患者を強制隔離して断種・堕胎を強要した。1907年の法施行に始まり、治療法の確立にもかかわらず、らい予防法が廃止されたのは96年
▼今も偏見を恐れて病院や福祉を利用せず、生活苦に陥る回復者がいる。「国辱」「国賊」などの言葉がネットのみならず政治でも跋扈(ばっこ)する中、生涯息を潜めて生きる回復者らを苦しめる差別への恐怖が身に染みる。