<金口木舌>T4作戦と「内なる差別」 - 琉球新報(2019年6月3日)

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ドイツ紙に載った意見広告。「ヘルガ 1923年8月5日生まれ。41年に連れていかれてナチスに殺された。家族によって黙殺された。でも、あなたをずっと思い出しますよ。あなたのめい、ギーゼラ・プッシュマン」

ナチスのT4作戦は障がいのある人を標的とした殺害計画。てんかん発作がある17歳のヘルガも狙われた。視覚障がいがある日本障害者協議会代表・藤井克徳さんの著書「わたしで最後にして ナチスの障害者虐殺と優生思想」に詳しい
▼40~41年の作戦期間中だけでも7万人余が殺されたが、ユダヤ人大虐殺と比べてT4作戦はドイツ社会で知られていない。家族に障がい者がいることを隠したい遺族の意識が影響したとの見方もある
▼ヘルガの存在を兄であるプッシュマンさんの父や母も伏せ続けた。プッシュマンさんは風化させたくない思いで、意見広告をほぼ毎年出している
▼藤井さんは親族による振る舞いを「内なる差別」とし、誰の心にも潜むと指摘する。優生政策に根底に流れる「強い国」をつくる思想は虐殺や強制不妊・断種などで人権を踏みにじった。傍観した人々も加害者といえる
▼旧優生保護法を問う国賠訴訟が全国で審理中だ。県内在住244人を含む568人が原告のハンセン病家族訴訟も熊本地裁で起こされた。国の責任を追及し一人一人の「内なる差別」に問い掛ける。