核軍縮へ基盤整備を 視標「G7広島サミットと核」 長崎大教授 西田充さん - 共同通信(2023年6月1日)

https://www.47news.jp/opinion/kyodo-column/9400603.html

われわれは今、再び核軍拡の時代に入ろうとしている。その兆しは10年前から見られていたが、今や否定しがたい事実となりつつある。米ロの核削減交渉は長年にわたり暗礁に乗り上げている。

ロシアは核のどう喝を繰り返し、新戦略兵器削減条約(新START)の履行を停止した。中国は大量の核ミサイル用サイロ(地下発射施設)を建設し大規模な核軍拡を始めている。米国でも歴史上初めて中国とロシアという二つの核大国に対峙(たいじ)しなければならない事態に直面し、核軍拡を唱える声が強まっている。

先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)はこうした文脈で開催される。報道によれば、G7首脳による原爆資料館の視察と被爆者との面会が予定されている。

安全保障政策において核使用の可能性を排除しないG7各国の指導者が被爆の実相を肌身に感じ取ることは、核使用の可否を巡るより賢明な判断に資するものとなろう。

さらに「ロシアの核どう喝には核がやはり重要だ」との言説が増幅する中、国際秩序を守るリベラル民主主義勢力の旗手であるG7の指導者が、被爆の実相を直接見聞した上で、人間のあるべき姿として「核なき世界」を追求する重要性を訴え、そのビジョンを打ち出すことは、それだけでも世界への極めて重要なメッセージとなる。

中国、ロシア、北朝鮮などと比べ、核兵器が非人道的であるとの価値観は、一般的にG7のような民主主義国家で共有されやすい。従って核は、国際秩序の現状を維持しようとする民主主義勢力にとってより使いづらく、武力による現状変更を試みる権威主義的な国家を利する兵器とも言える。

また核抑止は、理論通りに機能するとは限らず、破綻するリスクが常に存在する。短期的には抑止力強化が必要だとしても、長期的には、核は国際社会や自国の平和と安全を維持するための持続可能な手段とは言い難い。

そうした視点をG7の指導者が、武力による現状変更を認めない「法の支配」を打ち出す文脈でも位置付けることができれば、そのメッセージは単に核の非人道性への認識を示す以上に、より今日的な意義を持つものとなるだろう。

具体的な核軍縮措置としては「三つの規範」の形成・維持・強化を検討するようG7に促したい。核軍拡の時代の後、再び核軍縮の時代が訪れた際、すぐこれに取り掛かれる基盤を確保するのが目的である。

一つ目は、武力の行使とその威嚇をしてはならないという国際法上の一般原則と並ぶ形で、核の使用と威嚇をしてはならないとの規範だ。第二に核実験をしてはならない、最後は核兵器用の核分裂性物質(プルトニウムや高濃縮ウラン)を生産してはならないという規範である。

いずれも、将来の核軍縮の基盤を提供するのみならず、今後の核軍拡の速度を抑え、核軍縮のトレンドを何とか維持する試みでもある。そして、いずれの規範をも貫く原則が透明性の向上だ。

被爆地でのサミットである以上、本来ならより大胆な核軍縮構想を打ち上げることが望ましい。しかし、それでも来たる核軍拡の時代において、三つの規範は最低限、確立しておかなければならない核軍縮の要諦である。