米がINF条約離脱方針 核軍拡の歯止めを外すな - 毎日新聞(2018年10月23日)

https://mainichi.jp/articles/20181023/ddm/005/070/067000c
http://archive.today/2018.10.23-002155/https://mainichi.jp/articles/20181023/ddm/005/070/067000c

1987年12月、ワシントンで中距離核戦力(INF)全廃条約に調印したレーガン米大統領ゴルバチョフソ連共産党書記長の力強い握手は、東西冷戦の終わりを告げる象徴的な光景だった。
それから30年余り、トランプ米大統領はINF条約から離脱する意向を表明した。旧ソ連の条約継承国・ロシアが同条約に違反しており、中国の核軍拡も米国にとって大きな脅威になっているからだという。
ロシアの「違反」については北大西洋条約機構NATO)の事務総長も認める見解を示しており、必ずしもトランプ政権の独断とはいえない。だが、「離脱ありき」で突き進むのはあまりに危険である。
現在、タカ派で知られるボルトン米大統領補佐官がロシアを訪れ折衝を続けているが、離脱は思いとどまってほしい。ロシアも違反を否定するなら誠実に潔白を証明すべきだ。
射程500〜5500キロの地上発射型の弾道ミサイル巡航ミサイルを全廃する同条約は核軍縮における歴史的成果である。条約がなくなれば米露は再び欧州などで中距離核の配備に動くだろう。日本周辺の緊張が高まることも避けられない。
また2021年には米露の新戦略兵器削減条約(新START)の有効期限が切れる。核軍拡の数少ない歯止めである両条約が失効すれば、冷戦中のような軍拡競争が始まり、新たな核保有国も出現しかねない。北朝鮮非核化をめざす米朝交渉にとっても、米国の条約離脱が大きなマイナス要因になるのは必至だ。
むしろINF条約の精神に沿って核軍縮を推進すべきである。トランプ政権は核態勢に関する報告で特にロシアの脅威を強調し「小型核」の開発・配備にも言及した。だが、脅威に対抗して軍拡に走るより、世界の脅威を減殺する国際交渉を主導する方が有益なのは言うまでもない。
この問題の背景に見えるのは、核拡散防止条約(NPT)に反して核兵器の削減・全廃の努力を怠り、核兵器禁止条約も相手にしない核保有国の姿だ。本当にNPTを尊重しているなら、米露はINF条約を存続させ、新たな軍縮交渉を始めるべきだ。30年前とは比較にならぬ核戦力を持つ中国も加えて、米露中が真剣に核軍縮交渉を行う時である。