(余録)「震災と戦争とはよく似ています… - 毎日新聞(2023年3月10日)

https://mainichi.jp/articles/20230310/ddm/001/070/114000c

「震災と戦争とはよく似ています」。1月に93歳で亡くなった作家で精神科医加賀乙彦さんが「自伝」に記している。「どちらにおいても人間は自分の生きる場を奪われ、故郷を奪われ、ものもなくなり、当(あ)て所(ど)なくさまよい歩くしかない」

ロシアのウクライナ侵攻、トルコ・シリア大地震で苦しむ人々も同じだろう。10年以上内戦が続くシリアでは二つの苦しみがのしかかる。第2の都市アレッポでビルが倒壊し、10人以上が亡くなったのは地震の15日前だった。

一時、反政府軍の拠点になり、激しい爆撃を受けた。多くの建物が損傷し、倒壊の危機性があったといわれる。そこに巨大地震だ。トルコ側に逃れた数百万のシリア難民も直撃を受けた。

きょうは東京大空襲から78年。あすは東日本大震災から12年を迎える。原発事故も戦争と同様に大災害級の被害をもたらす人災である。福島の人たちも二重の苦しみにさいなまれてきた。
最初の記憶は「2・26事件」という加賀さんは震災後の避難所暮らしをテレビで見て東京が空襲にさらされた戦争末期を思い浮かべたそうだ。震災の翌年、加賀さんらの呼びかけで「脱原発文学者の会」が発足した。

「自分はなんと言う奇妙な戦争と平和と、自然の大災害と原子爆弾原発災害の時間を生きてきたことか」。そんな思いが自伝的長編小説「永遠の都」「雲の都」に結実したという。人類にとりウクライナやトルコ、シリアはその延長線上にある。人々の痛みに思いをはせ、支援を続けたい。