<ぎろんの森>選んだ言葉に決意込めて - 東京新聞(2023年3月4日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/234569

社説の表現に対し、読者から意見が寄せられました。

「普段使い慣れていない横文字の表現があり、真意が分かりづらい」というもので、例として「アイデンティティー」「アップサイクル」などが挙げられていました。

東京新聞は、テレビやコンピューターといったすでに日本語として定着しているものや言い換えが困難なものは別にして、外来語は可能な限り日本語で表現したり、補足の説明を付けるようにしています。言葉の選び方にさらに注意して、より分かりやすい社説となるよう心掛けます。

「言霊」といわれるように言葉には使う人の心が込められています。社説を執筆する際も、どうしたら問題の本質を表すことができるのか、読者に思いを伝えられるのか、日々頭を悩ませながら、言葉を選んでいます。

特に、政治家や行政が使う用語には細心の注意を払っています。うかつにもそのまま使うと権力側の思うつぼにはまってしまうからです。

例えば、政府が使う「平和安全法制」という用語が典型です。歴代内閣が憲法に反するとしてきた「集団的自衛権の行使」を可能にする法律などを指しますが、「平和」という文言で、違憲性を覆い隠す意図が感じられます。

ですから私たちは二〇一五年に当時の安倍晋三政権が成立を強行した当時から「安全保障関連法」という用語を使い続けています。

「反撃能力」も同様です。もともと「敵基地攻撃能力」と表現されてきましたが、政府は実際にそうした能力を保有するに当たり、反撃能力との文言に差し替えました。

歴代内閣は、敵基地攻撃能力の保有憲法の趣旨ではない、としてきましたので、この言い換えも違憲性を隠すためなのでしょう。社説では敵基地攻撃能力(反撃能力)と併記しています。

沖縄県の米軍普天間飛行場を巡る問題も、政府やメディアの多くは「移設」問題と表記しますが、東京新聞社説は極力「返還」問題と表現しています。この問題の本質は、米軍施設をどこかに移設することではなく、土地を返還することにあるからです。

社説の表現が一般と違う場合があるかもしれませんが、それは私たち論説室の決意の表れと受け取っていただければ幸いです。 (と)