万国津梁会議の提言 国民的議論喚起が必要だ - 琉球新報(2020年3月31日)

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米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設問題を県はどう解決すべきか。その道筋が示された。
県が有識者の意見を政策に反映させるために設置した「米軍基地問題に関する万国津梁会議」(柳沢協二委員長)による県への提言だ。辺野古移設に固執せず在沖米軍基地を県外・国外へ分散することで段階的に整理縮小をすべきだとしている。
理由として、軟弱地盤が見つかるなど、技術的に完成が困難で、政府の見通しでも9300億円の公費や12年以上の期間がかかることを指摘した。本来の目的である普天間飛行場の危険除去と運用停止を急ぐべきだと説いている。
県民による反発や、近年の安全保障環境の変化も挙げた。中国のミサイル攻撃能力の高まりを背景に、射程内に入る在沖米軍基地は地理的に弱くなったとし、軍事戦略的にも分散させた方が望ましいとした。
沖縄はアジア太平洋地域における緊張緩和・信頼醸成のための結節点を目指すべきだと結論付けた。これらの実現に向け、日米政府と県が参加した専門家会議の設置や国民的関心の喚起を求めた。
分散先の地名は示しておらず、狭い意味での辺野古代替案ではないが、普天間の危険除去の手法として辺野古移設以外の道筋を提起した。「知事から危険除去のためにどうするか語られていない」(菅義偉官房長官)といった批判への回答と言えよう。
米国が描く戦略を基に、軍事的合理性に沿った「現実路線」を示し、より実現性が高いとみられる政策を提言したことは評価できる。しかし柳沢委員長が「容易ではない」と言うように、大きな問題は米側よりむしろ日本側にある。
県外移設ができないのは「政治的理由」と政府要人が言ってきたように、基地を沖縄に押し付ける差別体質だ。
人ごとのように基地問題を黙殺する多くの国民の態度がそれを下支えしている。この構造を打破しなければ、「辺野古が唯一」を繰り返す日米政府の政策変更は難しい。
県議会は、沖縄の基地負担軽減について国民的議論を深め、民主的に解決すべきだとする意見書を可決した。県民投票の結果などを含め、こうした民意をバックに、県は世論喚起のあらゆる方法を模索し実行すべきだ。
提言には懸念もある。米国の戦略に沿うあまり基地機能強化に道を開かないかという点だ。米国は対中国の観点から海兵隊の役割を再定義し在沖海兵隊を従来以上に重視している。核弾頭が搭載可能な中距離ミサイルを沖縄など国内に配備する計画もある。
海兵隊が分散されても攻撃型ミサイルが配備されては元も子もない。県はその点に留意する必要がある。
海兵隊にとどまらず、自衛隊を含めた沖縄全体の基地負担をどう減らすか、中長期的なビジョンも必要だ。