(参院選2022) 許さぬ。民主主義の破壊 【編集局長・金井辰樹】- 東京新聞(2022年7月8日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/188446

 

参院選が終盤にさしかかった8日、安倍晋三元首相が銃弾に倒れた。民意を問う選挙で、国民に支持を訴えていた時のことだ。民主主義を真っ向から破壊しようという蛮行に、これ以上ない強い言葉で非難を表明したい。

「私はあなたの意見には反対だ。しかし、あなたがそれを主張する権利は、命をかけて守る」

18世紀に活躍したフランスの思想家ボルテールの言葉だ。自分の考えと違っていても、それを語る自由は尊重する。それこそが民主主義の基本だということを分かりやすく表現している。今回の行為はボルテールの考えと対極にある。

安倍氏は首相時代、「安倍一強」という言葉に象徴されるように、民意を軽視する政権運営が批判され続けてきた。今回の事件で、容疑者が安倍氏に対してどういう感情を抱いていたのか、わからない部分も多いが、どんな不満があったとしても、暴力で封殺しようとする理は、1ミリもない。

政治家への襲撃は日本でも断続的に起きてきた。1992年には当時自民党副総裁だった金丸信氏が銃撃を受けたが無事だった。2002年には民主党衆院議員だった石井紘基氏が刺殺された。07年には長崎市長だった伊藤一長氏が狙撃され死亡している。

いずれも、許されない行為である。ただし安倍氏は2度にわたり首相を務め、20年に首相から退いた後も、強い影響力を維持してきた。支持層の中には三度目の「登板」を求める声も少なからずあった。その人物が倒れた衝撃は、計り知れない。日本の政治史の汚点である。

私たちは今、何を行うべきだろうか。民主主義に挑戦状を突きつけられているのならば、歯を食いしばってでも民主主義を守る。そのためにはまず、10日に迫った参院選の大切さを、もう一度見つめ直したい。

これまで本紙が繰り返し報じてきたように、今回の参院選は物価高を中心とした、くらしを直撃する問題を問う選挙だ。それに加えて民主主義を守るための1票という重みも加わったと言ってもいい。そのことをかみしめて7月10日を迎えたい。