https://mainichi.jp/articles/20210909/ddm/001/070/128000c
「女王陛下の野党」は英国議会の最大野党をいう。党首は次期首相という含みの礼遇を受け、議員歳費と別に報酬もある。政権交代の定着した議会政治において野党も責任政治の担い手として遇してきた英国だ。
どうやら19世紀の前半には自然に使われ始めたらしい「陛下の野党」である。政党間のダイナミックな相互作用により政治全体を前進させる政党政治を生んだのは、頭で考えた理論ではなく、この言葉が象徴する現実的な知恵だった。
主権在民の今の日本でいえば、野党はその支持者だけのものでなく「国民全体の野党」ということだ。長期政権のよどみを引き継ぐ現政権がコロナ対策の後手後手で行き詰まったならばここぞ野党が責任を果たす時――のはずであった。
だが標的の菅義偉(すが・よしひで)首相はさっさと続投断念を決め、世人の目はもっぱら自民党総裁の後継者選びに注がれる。そのさなかに行われた立憲民主党の衆院選公約第1弾の発表と、共産、社民、れいわ新選組との間の4党共通政策合意である。
コロナ対策のほか森友・桜などの疑惑追及も挙げた立憲の公約は、自民総裁選と異なる論点をアピールしたのか。4党合意は安保法制の違憲部分廃止や消費税減税など、過去の自民党政治の否定を選挙協力のベースにするものだった。
ただ与党の失点は野党の得点というゼロサムゲームだけで政治は前へ進まない。国民が見守るのは過去の民主党政権の失敗もふまえた新たな価値、新たな政策構想なのを忘れてはならない「国民の野党」だ。