<金口木舌>金城さんのバトン - 琉球新報(2021年3月10日)

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東京五輪聖火リレーが25日、福島県のサッカー施設Jヴィレッジを出発点に始まる。「復興五輪」を打ち出し、沖縄は5月1~2日の日程で駆け抜ける予定だ

▼1964年の東京五輪は、沖縄が聖火リレーのスタート地点だった。当時沖縄は米国統治に抵抗していた時期で、本島を横断したリレーは、結果的に沖縄の日本復帰の機運を高めた。57年ぶりのトーチを各地のランナーがつなぐ
▼8日に急逝した金城雅春さん(享年67)も聖火ランナーに選ばれていた。ハンセン病回復者で、名護市の国立療養所沖縄愛楽園の自治会長だった。昨年末、記者に聖火ランナーの話を尋ねられ「僕が走るんじゃないよ。車いすが走るから」と笑っていたという
▼高校在学中にハンセン病を発症し、1980年に愛楽園に入所した。国の隔離政策の責任を問う訴訟では原告団長を務めた。差別や偏見から実名を公表できない人が多い中、先頭に立ち回復者の声を訴えた
▼回復者は家族と暮らせず、結婚も出産も許されなかった。半世紀以上、療養所での暮らしを余儀なくされた。金城さんの願いは「元患者が差別を恐れず大手を振って歩ける社会の実現」
▼らい予防法が廃止され25年、裁判も勝訴したが願いが実現したとは言い難い。過酷な歴史に学び、人権について考え続けていくことは、私たちが金城さんから託されたバトンだ。