https://mainichi.jp/articles/20201224/ddm/001/070/085000c
無実の罪をいう「ぬれぎぬ」の語源説の一つに、先妻の娘をねたんだ継母が漁師のぬれた衣を娘の枕元に置いて不義の罪に陥れたという話がある。こちらもみそにつかった服の血痕が冤罪(えんざい)かどうかの焦点となった。
6年前の地裁はその血痕のDNA型鑑定をもとに、事件で死刑判決を受けていた袴田巌(はかまだ・いわお)さんの再審請求を認めた。しかし、その後の高裁はDNA鑑定に疑問があると請求を棄却する。当然ながら注目の的となった最高裁の判断である。
その最高裁はみそにつかっていた服の血痕の色合いについて高裁の審理が不十分だと差し戻した。袴田さんの弁護団は1年以上みそにつかっていた服なのに血痕が黒ずまずに赤いままなのは証拠捏造(ねつぞう)の疑いがあると主張していたのだ。
再審への扉は大きく開かれた。言い遅れたが、54年前に静岡県で起きた一家4人強盗殺人放火事件のことである。当の袴田さんは6年前の地裁決定で刑の執行停止と釈放が48年ぶりに認められ、高裁の決定でもそれが継続されている。
確定死刑囚として獄中の33年余を暮らした袴田さんは釈放後も拘禁症状とみられる妄想を口にするという。カトリックに入信し、ローマ教皇を名乗ることもあった。だが、来日した教皇のミサに参列した後はそれがなくなったそうだ。
死刑判決は不本意だったと告白した1審の元裁判官の訃報が、先月伝えられたばかりだった。あたかも日本の刑事司法の不条理にはまり込んで、逃れられなくなったような84歳の“獄外の死刑囚”である。