袴田事件 東京高裁、再審開始認めず - 毎日新聞(2018年6月11日)

https://mainichi.jp/articles/20180611/k00/00e/040/173000c
http://archive.today/2018.06.11-045031/https://mainichi.jp/articles/20180611/k00/00e/040/173000c

1966年に起きた「袴田事件」で死刑が確定し、2014年の静岡地裁の再審開始決定で釈放された袴田巌元被告(82)の即時抗告審で、東京高裁(大島隆明裁判長)は11日、地裁決定を取り消し、再審請求を棄却した。静岡地裁の決定の決め手となったDNA型鑑定は「種々の疑問があり、信用できない」とした。弁護側は高裁決定を不服とし、最高裁に特別抗告する可能性が高い。
今後、審理は特別抗告審に移るとみられるが、地裁と高裁の判断が分かれたことで、袴田さんの再審開始の可能性は不透明な情勢となった。検察側は高裁の再審開始決定取り消しを受け、袴田さんの再収監の可否について検討する。
地裁は14年3月、確定判決で犯行時の着衣とされた「5点の衣類」について、「血痕が袴田さんや被害者と一致しない」とする弁護側のDNA型鑑定などを「新証拠」と認めて「後日捏造(ねつぞう)されたとの疑いを生じさせるもの」と結論づけ、再審開始決定を出した。
同時に地裁は、死刑と拘置の執行を停止する決定も出し、袴田さんは逮捕から約48年ぶりに釈放された。検察側は、地裁決定を不服として即時抗告した。
即時抗告審の東京高裁は15年12月、地裁で新証拠の一つと認められたDNA型鑑定(筑波大の本田克也教授が実施)の検証を決定。検察側が推薦した鈴木広一・大阪医科大教授に検証を依頼した。
鈴木氏は昨年6月、本田氏が鑑定で用いた「特別なたんぱく質」が「DNAを分解する成分を含んでいる」などとして、鑑定手法を否定する報告書を高裁に提出。弁護側は「鈴木氏の検証は本田鑑定と同じ器具や手法を用いておらず、高裁から求められた(本田鑑定の)『再現』をしようとしていない」などと反論した。こうした経緯から、対立する2人の専門家の意見を踏まえ、高裁がどんな判断をするかが注目された。
過去の死刑確定事件では、免田(発生は48年)▽財田川(同50年)▽島田(同54年)▽松山(同55年)の4事件で再審無罪が確定している。【石山絵歩】

【ことば】袴田事件

1966年6月30日未明、静岡市清水区(当時・清水市)で、みそ製造会社の専務の男性(当時42歳)方から出火。焼け跡から、専務と妻(同39歳)、次女(同17歳)、長男(同14歳)が他殺体で見つかった。元プロボクサーで同社従業員の袴田巌さんが逮捕、起訴され、公判で無罪を主張したものの、80年に最高裁で死刑が確定。第1次再審請求は2008年に最高裁で再審不開始が確定したが、第2次再審請求に対して静岡地裁が14年に再審開始を決定。検察側が即時抗告し、東京高裁が審理していた。