<金口木舌>エミネムと琉歌 - 琉球新報(2020年12月21日)

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とうとう追い詰められたトランプ大統領。「選挙に不正があった」と主張し続けたものの、側近とされた司法長官も不正を否定した。大統領選挙人による投票でバイデン氏の勝利が確定した

▼トランプ氏の扇動的な物言いで、分断された米社会の傷は深い。言葉で立ち向かったのはラッパーのエミネム。黒人差別に反対する集会で、白人至上主義者らの暴力を擁護したトランプ氏に対し「彼がいなければ俺たちは新しいアメリカに誇りが持てる」とラップで批判した
▼言葉を絞り込んで韻を踏み、リズムに乗せるラップ。辞書を持ち歩くエミネムらしく、選び抜いた言葉で強烈なメッセージを突きつけた
▼沖縄も独自の歌がある。8・8・8・6の30音からなる琉歌だ。琉球王府時代の代表的な女流歌人、恩納ナビーが生まれた恩納村で、1991年から琉歌大賞が開かれている
▼第25回の大賞は南城市津波松夫さん。終戦後、疎開先から故郷に戻り、父親や親類の戦没を知った。「礎名の親に 思ひ語らとて 平和願立てる 夏の摩文仁」。摩文仁の「平和の礎」に刻まれた親の名に平和を誓う思いが受賞作に込められている
▼争いや差別のない、平和な世の中を希求するのは古今東西どこも同じ。混沌とした社会に向き合い、思いを書き残してみるのもいい。次の世代がこの時代の教訓を生かしてくれることを願って。